事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過およびその成果
当期のわが国経済は、期前半において、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置の適用により、厳しい状況となりました。秋以降は国内の新規感染者数が低位に推移し、個人消費を中心に回復の動きが見られたものの、新たな変異株の急速な感染拡大や、ウクライナ情勢の悪化による原油価格の高騰、株価と為替の急変動などにより、経済の冷え込みが懸念されるなど、先行きが見通せない厳しい状況が依然として続きました。当社グループの事業環境においても、移動需要や宿泊需要が前期と比べて回復しましたが、変異株による流行期間の長期化とお客様の生活様式の変容などにより、業績は低調に推移しました。
2021年10月31日に京王線布田駅~国領駅間を走行中の列車内において傷害事件が発生しました。当社では、事件の発生を重く受け止め、鉄道事業本部内に、「鉄道テロ・災害対策担当」を新設し、現場再現調査も含めた事件の検証を踏まえ、警備員による駅構内や列車内の巡回を強化したほか、異常時における乗務員・駅係員の判断力向上のため、様々なトラブルを想定した訓練を警察・消防と共同で実施するなど、対応の強化にあたりました。引き続き、お客様の安全・安心を最優先としたさらなる取組みを実施してまいります。
当社グループは、当期においても新たなニーズに対応した商品・サービスの提供と不要不急のコスト抑制に努め、中長期の成長に向けた取組みを進めました。運輸業では、鉄道事業でダイヤ改正を実施し、有料座席指定列車「京王ライナー」および「Mt.TAKAO号」の停車駅に明大前を追加するなど、お客様の利便性向上に努めました。流通業では、ストア業において(株)セブン-イレブン・ジャパンと提携し、駅売店・コンビニエンスストアのフランチャイズ化を推進したほか、ショッピングセンター事業において下北沢駅高架下に新施設「ミカン下北」をオープンいたしました。不動産業では、都心部における新築分譲マンション事業を強みとする(株)サンウッドと資本業務提携を行うなど、不動産販売業の事業体制の強化に取り組みました。レジャー・サービス業では、ホテル業においてサービスアパートメント型長期滞在プランの販売を行うなど、新たなホテル宿泊ニーズに積極的に対応しました。その他業では、各事業において業務受託・工事受注に努めました。このほか、サテライトオフィス「KEIO BIZ PLAZA」を2店舗開業しました。
以上の結果、営業収益は、不動産業、その他業と「収益認識に関する会計基準」等の適用の影響が大きかった流通業で減収となり、2,998億7千2百万円(前期比4.9%減)、営業利益はその他業を除く各セグメントで改善し、7億4千万円となりました。経常利益は、助成金等の収入などにより53億6千6百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は、固定資産売却益の計上などにより55億8千5百万円となりました。
なお、新型コロナウイルス感染防止対策については、社長を本部長とする対策総本部が中心となり、お客様と従業員の安全を第一に、職域接種を実施するなど、引き続き感染防止対策に取り組みました。また、ワクチン集団接種会場への貸切バス運行を受託したほか、新型コロナウイルス感染症に罹患された方の通院を専用タクシー車両によりサポートしました。さらに、テイクアウト商品やデリバリーサービスの拡充、インターネット販売の強化など、コロナ禍において、お客様の利便性向上につながる各種施策に取り組みました。
次に、各セグメント別にご報告いたします。
セグメント別の概況

運輸業全体の営業収益は、鉄道事業で4月~5月を中心に緊急事態宣言が初めて発出された前期と比べて改善し、増収となったほか、バス事業およびタクシー業においても増収となったことなどにより992億3千2百万円(前期比12.2%増)となりました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変容などにより移動需要が依然として低迷していることから、営業損失は26億9千9百万円となりました。
鉄道事業では、京王線(笹塚駅~仙川駅間)連続立体交差事業について、事業主体である東京都とともに用地取得や高架橋基礎工事を引き続き進めたほか、代田橋駅~明大前駅間で高架橋柱の構築工事を進めました。安全性向上策では、下北沢駅においてホームドアの使用を開始したほか、下北沢駅および京王稲田堤駅1番線ホームにおいて、ホームと車両との間の段差隙間対策を完了しました。また、安全・防犯対策の強化をはかるため、異常事態発生時の係員の対処方法を見直すとともに、非常用設備に関するお客様の認知度向上に取り組んだほか、2023年度末の整備完了を目標として、リアルタイム伝送機能を持つ防犯カメラの全車両、全駅への設置を決定しました。自然災害への備えについては、鉄道施設の耐震補強工事を引き続き進めたほか、落雷による過電流・過電圧から駅の信号設備機器を保護するため、保安器を増設しました。サービス向上策では、平山城址公園駅においてリニューアル工事が竣工したほか、新線新宿駅改札内においてエスカレーター更新工事を進めました。営業面では、「京王ライナー」および「Mt.TAKAO号」の停車駅に明大前を追加したほか、「特急・準特急」の種別を名称統合のうえ、停車駅を改めた「特急」として運行し、調布以東における乗車機会の増加や都営新宿線方面との乗り換え利便性の向上をはかりました。また、有料座席指定列車において、期間限定でお子さま連れ専用車両を設定し、「こどもといっしょ割 座席指定券」を販売しました。さらに、「高尾山湯ったりきっぷ」を通年販売したほか、他の鉄道事業者と連携した乗車券を企画・販売しました。このほか、新線新宿駅改札外にデジタルサイネージを設置し、広告放映を開始しました。環境への取組みでは、車両について、より消費電力削減効果に優れたVVVFインバータ制御装置への更新を進めたほか、駅構内の照明や車両前照灯のLED化に取り組みました。また、電車がブレーキをかけた際に発生する回生電力を駅設備用の電力として供給する「駅舎補助電源装置」を、めじろ台駅に設置しました。さらに、地下駅について、外気温に応じて空調設備の設定を段階的に調整する運用に変更するなどの省エネルギー活動に取り組み、このうち調布駅での取組みについて、「2021年度省エネ大賞 省エネ事例部門・輸送分野」において最高賞である経済産業大臣賞を受賞しました。このほか、駅改札口に遠隔案内システムの導入を進めるとともに、車両について、運転状態のデータを蓄積・分析し、省エネルギー運転を補助するシステムの試験運用を開始しました。
バス事業では、路線バスにおいて、笹塚駅と中野駅を結ぶ路線や渋谷駅と新橋駅を結ぶ路線を新設したほか、地域のお客様のお買い物の利便性を高めるため、本年4月に宝生寺団地などと高尾駅南口の商業施設を結ぶ路線を新設しました。また、めじろ台駅と法政大学を結ぶ路線など、短時間に乗降客が集中する路線において輸送力を確保するため、連節バスの運行を開始しました。公式スマートフォンアプリ「京王アプリ」については、あらかじめ登録したバス停区間におけるバスの発着時分や走行位置をリアルタイムに表示する機能を追加し、バス運行状況を検索しやすくしました。高速バスにおいては、需要に応じて運賃を設定するダイナミックプライシングの導入路線を拡大しました。さらに、多摩動物公園においてライオンバスの運行を再開したほか、橋本駅と物流拠点「GLP ALFALINK相模原」間における従業員用通勤バスの運行を受託しました。
新たな取組みでは、東京都が公募した事業化プロジェクトへの採択を受けて、西新宿エリアにおいて自動運転バスの実証実験を行いました。また、当社が実施するMaaS(様々な移動手段を一元的に提供するサービス)の取組み「TAMa-GO」について、高尾山や飛騨高山エリアの交通機関や各施設で使用できる電子チケットの販売を拡充したほか、青梅市や八王子市南大沢地区における実証実験プロジェクトに参画し、地域周遊の活性化のための各種施策に取り組みました。さらに、新宿行き高速バスのトランクを活用した貨客混載事業による地域特産品の輸送の取組みでは、新宿・渋谷~仙台・石巻線で新たに宮城県石巻市の海産物の輸送を開始しました。このほか、物流事業の取組みとして、高速バスと鉄道を利用して飛騨高山の農産物を新宿駅に輸送し、その復路で駅設置の専用ボックスからレンタル商品の返却物等を集荷する実証実験を行いました。

流通業全体の営業収益は、百貨店業で前期と比べて改善しましたが、「収益認識に関する会計基準」等の適用により減収となり、また、ストア業で食料品等の巣ごもり需要が前期に比べて減少したほか、「収益認識に関する会計基準」等の適用により減収となったことなどにより969億4千1百万円(前期比24.6%減)、営業利益は前期の営業損失から改善し、20億2千6百万円となりました。
百貨店業では、「京王百貨店」新宿店において、自宅で過ごす時間の充実をコンセプトに、4階に手芸用品専門店を誘致したほか、屋上を改装し、緑と水をテーマにガーデニングやアクアリウム商品などを扱う店舗を誘致しました。また、聖蹟桜ヶ丘店において全館改装を完了し、化粧品や生活雑貨の拡充をはかったほか、「京王クラウン街橋本」にサテライト橋本店をオープンいたしました。
ストア業では、(株)セブン-イレブン・ジャパンと駅売店・コンビニエンスストアのフランチャイズ化に関する業務提携契約を締結し、「セブン-イレブン京王調布駅店」など12店をオープンしたほか、(株)マツモトキヨシのフランチャイズ店について、「薬 マツモトキヨシ 京王堀之内駅店」など3店をオープンいたしました。
ショッピングセンター事業では、「ぷらりと京王府中」の飲食フロア「TSUZUMI(つづみ)」をリニューアルオープンしたほか、下北沢駅高架下に「ようこそ。遊ぶと働くの未完地帯へ。」をコンセプトに、個性的な店舗やワークプレイス「SYCL(サイクル)by KEIO」が入居する「ミカン下北」をオープンいたしました。
さらに、「ベーカリー&カフェ ルパ」について、永福町店、桜ヶ丘店、笹塚店をそれぞれリニューアルオープンしたほか、高井戸店をオープンいたしました。

不動産業全体の営業収益は、不動産賃貸業で新規物件の稼働などにより増収となったものの、不動産販売業でリノベーション物件の売上が減少したことなどにより472億2百万円(前期比1.7%減)、営業利益は104億7千万円(前期比0.7%増)となりました。
不動産賃貸業では、高尾山口駅前に様々な時間・風景・自然を楽しむアクティビティや食事を提供する体験型ホテル「タカオネ」を開業したほか、「京王クラウン街笹塚」の駅改札前エリアをリニューアルオープンいたしました。また、シェア型賃貸住宅「シェアプレイス下北沢」のほか、賃貸マンション「MODIER YOYOGI RESIDENCE」など4棟が竣工し、入居を開始しました。
不動産販売業では、「リビオレゾン THURSDAY調布」を完売したほか、「ブリリアタワー聖蹟桜ヶ丘ブルーミングレジデンス」の共同販売を引き続き進めました。また、集合住宅「グリーンリーフ府中緑町」を一棟販売したほか、都心部の既存物件を単身世帯用の賃貸マンションにリノベーションし、一棟販売しました。
このほか、既存の建物をホテルにリノベーションし、「THE SHARE HOTELS」として運営する事業では、9店舗目として「MIROKU 奈良」を開業しました。また、不動産業の領域拡大をはかるため、都心部における富裕層向け新築分譲マンション事業を強みとする(株)サンウッドと資本業務提携契約を締結し、当社の関連会社としました。

レジャー・サービス業全体の営業収益は、ホテル業で10月~12月を中心に前期と比べて客室稼働率が回復したことなどにより329億8千2百万円(前期比30.2%増)となりました。しかしながら、宿泊需要が依然として低迷していることなどにより、営業損失は前期と比べて改善したものの134億4千1百万円となりました。
ホテル業では、開業50周年を迎えた「京王プラザホテル(新宿)」において、特別宿泊プランや記念商品などを企画・販売したほか、ラウンジやフィットネスルームなどの施設が利用できるサービスアパートメント型長期滞在プランの販売を行いました。また、(株)サンリオとタイアップしたスイーツブッフェを開催するなど、料飲需要の取込みに努めました。さらに、巨大地震による長周期地震動の建物への影響を低減させる制振装置の設置など、耐震対策工事を進めました。このほか、「京王プレッソイン」において利用頻度の高いお客様をターゲットに宿泊回数券を販売するなど、各ホテルにおいて引き続き新規プランの開発・販売に取り組むとともに、インターネット販売の強化に取り組みました。また、「高山グリーンホテル」では、本館の耐震改修工事とフロント・ロビーのリニューアル工事が竣工しました。
飲食業では、「ぷらりと京王府中」において、「たまの里」「カレーショップC&C」をそれぞれリニューアルオープンしたほか、「たまの里」笹塚店をオープンいたしました。また、フランチャイズ店として「カレーショップC&C」大手町メトロピア店がオープンいたしました。

その他業全体の営業収益は、建築・土木業で完成工事高が減少したほか、ビル総合管理業で受注が減少したことなどにより625億4千8百万円(前期比4.4%減)、営業利益は51億4千2百万円(前期比2.7%減)となりました。
ビル総合管理業では、横浜市営地下鉄および東京臨海高速鉄道(りんかい線)において、引き続き駅業務を受託したほか、東京都立多摩産業交流センター「東京たま未来メッセ」の施設管理に関する受託業務を本年4月から開始しました。車両整備業では、函館市企業局から路面電車の車体改修工事を、アルピコ交通(株)から上高地線で新たに運行する鉄道車両の改造工事を、それぞれ受注したほか、引き続き各鉄道事業者から全般・重要部検査などの定期検査業務を受注しました。建築・土木業では、横浜市や渋谷区においてマンションを建設したほか、都営三田線や都営浅草線のトンネルの長寿命化工事を行いました。また、多摩市からコミュニティーセンターなどの改修工事を新規受注しました。子育て支援事業では、本年4月に認可保育所「京王キッズプラッツ桜上水」を開設しました。
このほか、テレワーク需要の拡大を捉え、沿線における職住近接を実現する場を提供するため、サテライトオフィス「KEIO BIZ PLAZA」を「京王プラザホテル(新宿)」および「京王プラザホテル八王子」内にそれぞれ開業しました。
企業の社会的責任に対する取組み
当社は、東京都水道局の「みんなでつくる水源の森実施計画」に賛同し、同局と「東京水道~企業の森」協定を締結しました。この協定に基づき、多摩川上流域の水源林の一部を「京王水源の森」と名づけるとともに、森林保全活動に取り組んでおります。また、当社では、保有するビルについて省エネルギー化に取り組んでおり、東京都環境確保条例が定める削減目標値以上にCO₂排出量を削減しております。東京都のキャップ&トレード制度に基づくカーボンオフセットの取組みとして、この超過削減量の一部と、高尾山エリアにおける当社グループの2022年の年間CO₂排出量を相殺し、実質ゼロとしております。
対処すべき課題
当社グループでは、グループとしての存在価値を明文化した「京王グループ理念」を制定し、これをグループ内外に発信することで、グループ全体の価値観や方向性の共有化をはかっております。

この「京王グループ理念」を具現化するため、「京王グループ経営ビジョン」に基づき、当社グループの競争力の強化に取り組むとともに、法令・倫理を遵守し、地域社会貢献活動を行うなど、企業価値・株主共同の利益および沿線価値の向上に努めております。今後も「京王グループ理念」の具現化を目指し、当社グループが長年培ってきた有形・無形の経営資源を維持・活用してまいります。
当社グループは新型コロナウイルス感染症による生活様式変容の渦中にあります。テレワーク等の定着により鉄道・バスの輸送人員はコロナ禍以前の水準に回復することは想定できない状況にあり、インバウンド需要に支えられてきたホテル業や百貨店業、駅を中心にビジネスを展開してきたグループ各事業についても極めて厳しい状況が続いているなど、当社グループを取り巻く環境が劇的に変化しております。
当社グループでは、これら諸課題に対応するとともに、今後の大規模投資の本格化を見据え、事業の選択と集中の推進により各事業の利益水準を改善し、ポストコロナ社会に適応した事業構造への抜本的な変革を完遂するため、2022年度を初年度とする「京王グループ中期3カ年経営計画」を策定しました。鉄道事業では、輸送人員がコロナ禍以前の水準までは戻らないという前提のもと、効率化を進めながら必要な投資を積極的に行い、安全・安心の確保、利便性の向上、環境への取組みの強化をはかるとともに、日本一の安全・サービスレベルの実現を目指します。不動産業については、沿線拠点の価値創造をはかるため、鉄道会社の原点である「まちづくり」に地域社会と連携して取り組みます。また、事業基盤である不動産賃貸業に加え、不動産投資・販売業を強化し、資産効率の向上と事業領域の拡大により、収益力の向上をはかります。ホテル業では、ホテル全社で早期の営業黒字化を実現するため、不採算部門の見直しなど徹底した効率化と、国内需要の取込みにより、利益の安定的な確保をはかります。このほか、専門性の高い人材の採用・育成と、各事業の特性に応じた人事・組織体制の構築を行うとともに、サステナビリティの考え方を経営方針や事業戦略に反映させ、事業継続が可能な盤石な経営推進体制を構築します。
これらの取組みにより、お客様のニーズを捉えた移動需要を創出するとともに、魅力あふれる住みたくなる「まちづくり」を推進し、沿線価値向上を実現してまいります。具体的には以下に記載する各施策に取り組み、グループ一丸となってこの難局を乗り越えてまいります。
(1)鉄道事業における安全に向けた取組みと事業運営体制の変革
鉄道事業では、「日本一安全でサービスの良い鉄道」を掲げ、「より高度な安全・安心の追求」「お客様ニーズを先取りしたサービスの提供」「未来を見据えた盤石な事業運営体制の構築」などを推進します。
「より高度な安全・安心の追求」では、引き続き「安全に関する基本方針」を徹底するとともに、「有責事故ゼロ 運転事故・輸送障害発生件数の前年比削減」を安全目標として事故・トラブルの未然防止に努め、社会的な使命である「輸送の安全性と安定性の確保」のための取組みを進めます。

2021年10月31日に発生した京王線車内での傷害事件への対応として、2023年度末を目標に、リアルタイム伝送機能を持つ防犯カメラを全車両、全駅に設置します。また、引き続き、警備員による駅構内や列車内の警備強化に取り組むとともに、警察・消防との共同訓練や職場ごとの集合研修を通じて、異常時における乗務員・駅係員の判断力向上に取り組みます。さらに、非常用設備の使用方法等について、お客様への周知に努めます。
道路と鉄道を立体交差化し、25か所の踏切を廃止する京王線(笹塚駅~仙川駅間)連続立体交差事業については、引き続き事業主体である東京都とともに用地取得や高架化工事などを進めます。また、大型台風や首都直下型地震、大規模噴火などの自然災害を想定し、お客様や係員の安全確保、鉄道施設の機能維持に向けた対応を進めるほか、高架橋やトンネル、盛土などの耐震補強工事に継続して取り組みます。さらに、新線新宿駅リニューアル工事を進めるとともに、変電所設備やエレベーターなどの老朽化更新工事についても順次進めます。このほか、ホームドアおよびホームと車両との間の段差隙間対策について、全駅整備に向けた検討を進めます。バリアフリー化施策については、お客様に対し、設備の整備状況や利用方法の周知を行うとともに、従業員教育を推進し、ハード・ソフトの両面から取組みを進めます。
「お客様ニーズを先取りしたサービスの提供」では、5000系車両を増備するとともに、京王ライナーの増発を含めたダイヤ改正について、輸送動向やポストコロナの移動需要、外部環境の変化等を踏まえ、引き続き検討します。また、デジタルスタンプラリーや子育て世帯の移動ニーズに対応したサービスなど、沿線誘致・回遊施策を実施します。
「未来を見据えた盤石な事業運営体制の構築」では、利益水準確保に向けて鉄道部門全体の意識を改革するとともに、部門横断プロジェクトの継続推進、組織や職位を越えた協働による創意工夫、駅業務や設備保守業務でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の積極的な推進など、収益力向上と業務効率化をはかります。
今後も、お客様の安全・安心を確保し、快適な輸送サービスを提供し続けるため、業務の効率化を進めながら、必要な投資を積極的に行うとともに、厳しい事業環境下において「輸送の安全性と安定性の確保」の取組みを継続していくため、運賃についても改定の検討を行ってまいります。
(2)不動産業の強化
不動産業では、街の中心となる拠点開発を本格化するとともに、外部企業等との連携・共創による地域の賑わい創出にも取り組み、魅力あふれる住みたくなる「まちづくり」を進めます。新宿駅西南口地区開発計画については、2021年10月に東京都から内閣府に対し、都市再生プロジェクトとして提案され、2022年4月に都市計画手続きが開始されました。当社では、本計画の事業着手に向けて、新宿駅周辺の他の開発事業者とも連携し、2022年度内の都市計画決定を目指します。また、京王線(笹塚駅~仙川駅間)連続立体交差事業で新たに創出される駅前や高架下の空間におけるエリア一体での開発計画、橋本駅周辺におけるまちづくり、京王多摩川駅周辺地区の再開発事業、聖蹟桜ヶ丘地区での賑わいがあふれるまちづくりなど、地域資源を生かした開発計画を推進します。
不動産賃貸業では、中野区弥生町の賃貸マンションを完成し、入居を開始するほか、不動産販売業では、共同事業として取り組んでいる「ブリリアタワー聖蹟桜ヶ丘ブルーミングレジデンス」を完成し、引渡しを開始します。また、(株)サンウッドとの共同事業を推進するなど、新築分譲マンション事業を強化します。このほか、不動産業の成長戦略の実現に向けて、不動産投資・販売業の強化や、保有不動産売却の受け皿となる不動産ファンドの設立の検討など、資産効率向上や事業領域拡大、収益力向上をはかります。
(3)グループ事業における課題解決、事業の見極め
ホテル業については、ホテル全社で早期の営業黒字化を実現するため、法人・団体営業の推進やインターネット販売の強化により国内需要の取込みをはかる一方、「京王プラザホテル多摩」の閉館や、不採算部門の縮小、要員の見直しなど、運営体制の再構築とコスト削減の徹底をはかります。また、旅行業についても、団体旅行の営業強化をはかるとともに、カウンター事業の大幅な縮小により固定費を圧縮するなど、事業の選択と集中を進めます。百貨店業では、「京王百貨店」新宿店において、売場改装やブランドの誘致に取り組み、集客力強化をはかります。また、ショッピングセンター事業について、駅前商業施設が街の中核拠点であり続けることを目指し、施設運営の専門性の向上と組織体制の最適化に向けた検討を進めます。ビル総合管理業や建築・土木業などのBtoB(企業間取引)の領域では、積極的な営業活動による外部受注の拡大をはかります。
(4)新規事業の積極的な推進
外部企業等との連携・共創をはかりながら既存事業の強化や課題解決に取り組むとともに、当社の事業ポートフォリオの拡充を目指し、ベンチャーキャピタルファンドへの出資などを検討します。また、沿線拠点周辺エリアの人流データを分析することにより、グループ横断で地域活性化施策を行うエリアマネジメント体制を構築します。MaaS(様々な移動手段を一元的に提供するサービス)への取組みについては、沿線の行楽・商業施設や交通機関で使用できる電子チケットの販売など、お客様誘致・エリア回遊施策をさらに充実させます。このほか、沿線自治体の交通計画や地域課題に対して、生活様式の変容や居住者の高齢化を踏まえた交通施策を検討・実施するなど、移動需要の活性化につながる施策を展開します。物流事業については、多摩境駅の近隣に、物流倉庫・店舗などから構成される複合施設を建設するほか、沿線の生活者を支えるラストワンマイル配送網の構築に向けて、配送拠点の新設や鉄道を活用した配送の拡大に取り組みます。
(5)強固な経営体制の整備に向けた取組み
コーポレート・ガバナンス体制についてさらなる充実をはかるとともに、経済的価値・社会的価値両面での持続的な成長に向けて、サステナビリティについての基本方針を策定するなど体制整備を進め、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った情報開示を検討します。また、成長戦略の実現に向け、専門性の高い人材の採用・育成の強化をはかります。さらに、鉄道におけるテロや大事故等の重大事案発生時の全社対応方針を定め、複合災害に対処できるよう、体制を整備します。このほか、グループ全体のコンプライアンスリスクを再点検し、ハラスメントに対処するとともに、サイバー攻撃に備え、ウェブサイトやシステムインフラ基盤のセキュリティ対策を強化します。
(6)企業の社会的責任に対する取組み
当社グループでは、すべての事業において「京王グループ理念」および「京王グループ行動規範」に則った活動を積極的に推進しております。
環境面においては、各事業の特性に応じて、CO₂排出量削減など環境負荷低減策に取り組み、社会の一員としてカーボンニュートラルなどの社会的な要請に応えてまいります。省エネルギー化施策として、京王線・井の頭線駅構内や当社保有ビルの照明のLED化を推進するほか、地下駅における空調設備の効率的な運用について、調布駅、布田駅、国領駅、新宿駅に続き、京王八王子駅においても実施します。また、鉄道車両について、より消費電力削減効果に優れたVVVFインバータ制御装置への更新を進めるほか、運転士が自らの運転効率を随時確認することのできる省エネルギー運転補助システムの導入を進めます。
社会的な側面においては、多世代が共に生き、交流する沿線づくりとして、子育て世代を対象とした事業や高齢者住宅事業などに引き続き取り組みます。また、多様な人材雇用や女性の活躍推進、育児・介護と仕事の両立やワークライフバランス、定年延長などの検討を進め、働きやすい・活躍できる職場の実現をはかります。
今後も株主の皆様をはじめとして、お客様、お取引先など、ステークホルダーの皆様と対話を重ね、これら社会的責任を果たす活動に継続して取り組み、沿線とともに成長し、地域社会への貢献に努力し続けます。