事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過およびその成果
(1) グループ経営ビジョン「変革 2027」実現に向けた取組み
「変革 2027」の実現に向けて、「安全」は引き続き経営のトッププライオリティと位置づけ、「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」、「経営体質の抜本的強化(構造改革)」、「成長の基盤となる戦略の推進」および「ESG経営の実践」に取り組んでまいります。
安全・安定輸送に磨きをかけ、当社グループのすべての基盤であるお客さまや地域の皆さまからの「信頼」を高めます。社員一人ひとりが仕事の本質を理解してリスクに対して主体的に対処するとともに、昨今の自然災害の激甚化も踏まえた災害リスクの減少に取り組みます。これにより、重大事故に至るリスクを極小化し、「お客さまの死傷事故ゼロ、社員の死亡事故ゼロ」の実現をめざします。また、異常時におけるお客さまへの影響拡大防止などサービス品質の改革に向けた取組みも推進していきます。
さらに、2023年3月に設定した鉄道駅バリアフリー料金制度を活用し、ホームドア等の整備を拡大・加速していきます。

ホームドア(横浜線矢部駅)
「ポストコロナ」と「インバウンド」をキーワードに、旅行気運・移動需要の回復を捉えて、ライフスタイルの変化に対応した新しい商品・サービスを展開し、当社グループの持つ強みを活かして積極的に新領域へ挑戦することで、新たな収益の柱を作ります。
中央快速線グリーン車の導入に向けた工事や車両の新造を進めるとともに、2031年度の開業をめざして、2023年度から羽田空港アクセス線(仮称)の本格的な工事に着手します。また、需要に応じたお客さまに対するきめ細かなサービスの提供、「はこビュン」の増売、海外プロモーションによるインバウンド誘客、様々なエリアでの「Tabi-CONNECT」を活用したMaaS展開、「JRE MALL」の品揃え強化、「STATION WORK」のさらなる拡大など、3事業を融合したサービスの創造に取り組みます。さらに、「TAKANAWA GATEWAY CITY」をはじめとした多様な魅力あるまちづくり、不動産事業における回転型ビジネスなど、攻めの戦略を加速していきます。

中央快速線グリーン車導入

TAKANAWA GATEWAY CITY(イメージ)
鉄道事業の将来にわたるサステナブルな運営のために、柔軟なコスト構造をめざします。そのために、自動運転・スマートメンテナンスなど新技術の活用、設備のスリム化、現場第一線社員のアイディアを生かした技術開発等による仕事の仕組みの見直しを含め、固定的なオペレーションコストの削減を推進します。
2023年3月に導入した「オフピーク定期券」サービスのように、運賃制度や列車ダイヤといった事業運営の基本となる事項について、ご利用状況等を踏まえ、より柔軟な運用に向けて検討を行うとともに、地方ローカル線については、沿線自治体等と持続可能な交通体系の構築に向けた協議を進めます。
また、急速なスピードで変化する経営環境に柔軟に対応し、一人ひとりの社員の働きがいの向上と生産性向上による経営体質の強化を図るため、組織改正を進めております。権限移譲および系統間や現業機関と企画部門の融合を進め、お客さまに近い場所でスピーディーな価値創造・課題解決に取り組むとともに、社員の活躍のフィールドを拡大していきます。

点群データを活用した上屋等の建築限界との離隔測定

オフピーク定期券サービス ロゴ
これらの実現に向け、その基盤となる人材、イノベーション・知的財産、財務・投資等の戦略を明確にし、グループ一体で取り組みます。人材戦略については、社員の果敢なチャレンジに応える仕組みを構築し、社員のウェルビーイングの向上を図るとともに、事業構造を抜本的に変革するため、重点・成長分野への社内人材の活用および外部人材の確保など経営戦略を加速する人的資本経営をめざします。
また、イノベーション・知的財産戦略については、各事業において戦略的な知的財産の取得・活用等を進めるとともに、社内外の技術・知見等を活用した技術開発、デジタルを使った業務改善や価値創造などデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、ビジネス創出や業務効率化を推進します。
さらに、財務・投資戦略については、中長期視点に基づく連結キャッシュ・フロー経営を追求するとともに、現業機関社員の発意・創意工夫を自ら実現できる仕組みのさらなる浸透を図ります。

『WaaS※共創コンソーシアム』によるオープンイノベーション推進
※Well-being as a Service

知財取得例:JR東日本アプリ(意匠第1661710号)
(リアルタイム経路検索の画面)
環境、社会、企業統治の観点から「ESG経営」を実践し、事業を通じて社会的な課題を解決することで、地域社会の持続的な発展に貢献するとともに、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取組みを推進します。
環境については、JR東日本グループ「ゼロカーボン・チャレンジ2050」に向けて、2030年度までに東北エリアにおけるCO₂排出量実質ゼロをめざします。また、地方創生については、新駅開業や地方中核駅を中心としたまちづくり、6次産業化による地域経済の活性化などに取り組みます。さらに、企業統治については、意思決定や業務執行のさらなる迅速化および取締役会の監督機能の強化等を目的に、第36回定時株主総会における承認を条件として監査等委員会設置会社へ移行します。

エネルギービジョン2027(概念図)

地方創生型ワークプレイス「JRE Local Hub 燕三条」

太陽光発電設備の導入(高輪ゲートウェイ駅)

青森駅東口駅ビル開発(イメージ)
これらの戦略を着実に推進することで経済価値を創造するとともに、事業を通じて社会的課題の解決に取り組み、地域社会の発展に貢献することにより、お客さまや地域の皆さまからの「信頼」を高め、世の中に価値を提供し続けるサステナブルなグループをめざします。
(2)全般の状況
当連結会計年度におけるわが国経済は、緩やかに持ち直しの動きがみられたものの、新型コロナウイルス感染症、物価上昇、供給面での制約および金融資本市場の変動等の影響により厳しい状況が続きました。
このような状況の中、当社グループは、2020年9月に発表したポストコロナ社会に向けた対応方針である「変革のスピードアップ」のもと、「安全」を経営のトッププライオリティに位置づけ、「収益力向上」、「経営体質の抜本的強化」および「ESG経営の実践」に取り組み、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けた歩みを加速しました。
「究極の安全」を実現するため、「グループ安全計画2023」のもと、大規模災害等の新たなリスクを捉えたルール・しくみの変革や、「うまくいっていること」にも着目する取組みの推進といった、一人ひとりの「安全行動」および「安全マネジメント」の進化と変革に、グループ一体で取り組みました。また、2022年度より導入した電柱建替用車両による新幹線の電柱地震対策をはじめ、新たな技術を積極的に活用した安全設備の整備を推進しました。
「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」では、鉄道事業を取り巻く環境が厳しさを増す中、旅行気運・移動需要を喚起するため、現業機関社員の発意も取り入れながら、「鉄道開業150年」や「新幹線YEAR2022」に関わる様々な施策を展開しました。さらに、ライフスタイルの多様化を大きなチャンスと捉え、成長・イノベーション戦略を再構築し、グループの強みであるリアルなネットワークとデジタルを掛け合わせ、デジタル化・チケットレス化やスタートアップ事業の推進等、新しい暮らしの提案や新領域への挑戦に取り組みました。
「経営体質の抜本的強化(構造改革)」では、ワンマン運転の拡大や自動運転技術の推進、スマートメンテナンスをはじめとしたDXのさらなる加速等、生産性向上に向けた取組みを実施しました。また、サステナブルなJR東日本グループを創るため、2022年6月以降、JR東日本の組織改正を進めるとともに、グループ全社員の働きがいの向上のため、業務改革、働き方改革、職場改革の3つの改革を進めました。2023年3月31日現在、計34箇所で「組織横断プロジェクト」が活動しており、部門や組織を越えてお客さまに近い場所で創意を発揮し、エリアや線区の課題解決に挑戦しております。

山形新幹線E8系車両

鉄道開業150年記念イベント(品川駅)

山手線E235系の自動運転導入に向けた試験
「ESG経営の実践」では、当社グループがめざすエネルギー戦略として、2022年7月に「エネルギービジョン2027~つなぐ~」を策定し、2050年度までに当社グループ全体のCO₂排出量実質ゼロに向けて、駅・車両への省エネ設備の導入や省エネ運転の推進、風力・太陽光といった再生可能エネルギー開発を推進しました。また、地域との共創を通じた地方創生の実現をめざし、いわきや青森、新潟における地方中核駅を中心としたまちづくり、山形や弘前における地域連携ICカードのエリア拡大、および京葉線と田沢湖線における新駅開業を実施しました。
今後も、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けてグループ一体で取り組んでまいります。
当連結会計年度の決算につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復によりすべてのセグメントで増収となったことなどにより、営業収益は前期比21.6%増の2兆4,055億円となりました。また、これに伴って営業利益は1,406億円(前期は営業損失1,539億円)、経常利益は1,109億円(前期は経常損失1,795億円)、親会社株主に帰属する当期純利益は992億円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失949億円)となりました。

西目西ノ沢風力発電所

地域産業の振興(笠間栗ファクトリー)

セグメント別の状況

運輸事業では、新型コロナウイルスの感染防止対策の徹底と、安全・安定輸送およびサービス品質の確保にグループの総力を挙げて取り組みました。
この結果、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復で鉄道運輸収入が増加したことに加え、Suicaに係る負債の収益計上時期を変更したことなどにより、売上高は前期比26.1%増の1兆6,803億円となり、営業損失は240億円(前期は営業損失2,853億円)となりました。

幕張豊砂駅

流通・サービス事業では、駅を交通の拠点からヒト・モノ・コトがつながる暮らしのプラットフォームへと転換する「Beyond Stations構想」などを推進しました。
この結果、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復でエキナカ店舗の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比16.4%増の3,635億円となり、営業利益は前期比149.9%増の352億円となりました。

Eki Tabi MARKET(大宮駅)

不動産・ホテル事業では、大規模ターミナル駅開発や沿線開発など「くらしづくり(まちづくり)」を推進し、地域とともに街の魅力を高めました。
この結果、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復でホテルやショッピングセンターの売上が増加したことなどにより、売上高は前期比9.1%増の4,097億円となり、営業利益は前期比3.5%増の1,115億円となりました。

ホテル B4T いわき

その他の事業では、Suicaの利用シーンのさらなる拡大と、シームレスでストレスフリーな移動を実現する「MaaSプラットフォーム」の拡充などに取り組みました。
この結果、クレジットカード事業の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比7.0%増の2,231億円となり、営業利益は前期比47.9%増の172億円となりました。

交通系ICカード全国相互利用10周年記念セレモニー
セグメント別の業績の状況
当社グループにおけるセグメント別の業績の状況は、次のとおりです。

対処すべき課題
① 経営の基本方針(グループ理念)
〇私たちは「究極の安全」を第一に行動し、グループ一体でお客さまの信頼に応えます。
〇技術と情報を中心にネットワークの力を高め、すべての人の心豊かな生活を実現します。
② 今後の経営環境の変化
新型コロナウイルス感染症には一定の収束が見られ、国内外の人々の動きは活発になり、今後、お客さまのご利用は着実に回復していくと想定しておりますが、ライフスタイルの変容により、その水準は感染症拡大以前には完全には戻らないと考えられます。また、物価や金利の上昇、供給面での制約、金融資本市場の変動等のリスクが懸念されます。
中長期的には、より一層の人口減少や高齢化の進展が見込まれるとともに、自動運転等の技術革新やグローバル化の変容など、経営環境が大きく変化していくことが想定されます。
加えて、当社グループは、会社発足から36年が経過し、鉄道のシステムチェンジや社員の急速な世代交代など、様々な変革課題に直面しております。
③ 中期的な会社の経営戦略
グループ経営ビジョン「変革 2027」において、将来の環境変化を先取りした経営を進めてきましたが、今後もお客さまのご利用は以前の水準には戻らないという考えのもと、2020年9月にポストコロナ社会に向けた対応方針である「変革のスピードアップ」を発表しました。今後、各種施策を着実に進めるとともに、特に2023年度は攻めの姿勢に大きくモードチェンジし、新しい価値創造に取り組むことで、「変革 2027」の実現に向けた歩みを加速していきます。
私たちの強みであるリアルなネットワークとデジタルを掛け合わせ、「ヒト起点」の発想で鉄道を中心としたビジネスモデルを進化させ、構造改革を推進します。また、輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの3事業を融合した価値創造に取り組むとともに、成長余力の大きい事業に経営資源を積極的に振り向けてビジネスポートフォリオを変革します。これにより、鉄道を中心とする「モビリティに関する事業」とお客さまの「生活ソリューションにつながる事業」の比率を、できるだけ早期に「5:5」にすることをめざします。
④ 目標とする経営数値
グループ経営ビジョン「変革 2027」において、2025年度をターゲットとした数値目標を設定しておりましたが、コロナ禍で急激に変化した経営環境のその後の推移等を踏まえ、2023年4月に2027年度を新たなターゲットとした数値目標を以下のとおり設定しました。今後も目標達成に向けてグループ一体となって取り組んでまいります。
