事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)
当社グループの現況に関する事項
(1) 当社グループの事業の経過及びその成果
① 当期の業績
当期の世界経済は、新型コロナウイルス感染症による影響が緩和し、経済活動の正常化が進みました。しかしながら、ロシア・ウクライナ情勢を背景とした国際商品市況の上昇や、インフレ抑制に向けた各国の金融引締めの影響により世界経済の成長は鈍化しました。日本経済も緩やかに持ち直していますが、原材料価格の上昇や円安による輸入物価の上昇が、景気の下押し要因となりました。
このような事業環境のもと、不定期専用船事業及びライナー&ロジスティクス事業における増益により、当期の連結業績は、売上高2兆6,160億円(前期比14.7%増)、営業利益2,963億円(前期比10.2%増)、経常利益1兆1,097億円(前期比10.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益1兆125億円(前期比0.3%増)と前期と比べて増収増益となりました。
② 各事業別の概況
●ライナー&ロジスティクス事業
定期船事業
コンテナ船部門では、Ocean Network Express Pte. Ltd. (ONE)は、旺盛な需要に支えられ、順調な滑り出しを見せました。しかし、夏頃から北米における商品在庫の積み上がりや欧州におけるインフレ進展による消費減退を受けた輸送需要の鈍化が見られ、さらに港湾混雑の解消により船舶供給量が増加したことから、需給が軟化しました。マーケットの動きに対応すべく、ONEでは需要に応じたスペースの最適化等の取組みを進めたことに加えて、円安によるプラスの為替影響により、経常利益は前期を上回りました。なお、高品質な輸送サービスを提供するため、最新鋭の大型コンテナ船を発注する等、継続した投資を実行しました。
国内ターミナルでは取扱量が概ね前期並みとなりましたが、国外ターミナルでは北米ターミナルの取扱量が減少しました。
これらの結果、定期船事業全体では前期と比べて、増収増益となりました。
航空運送事業
航空運送事業では、半導体製造装置の堅調な輸送需要と好況下に締結した長期契約に支えられ、運賃が前期と比べて高水準となった一方、中国のロックダウン、海上輸送の混雑緩和により航空貨物へのシフトの動きが弱まったことで、輸送重量は前期を下回りました。また、ロシア・ウクライナ情勢を背景に、燃料油単価が高止まりしたことで燃料費が大きく増加しました。
以上の結果、航空事業全体では前期と比べて増収減益となりました。
なお、本年3月に、ANAホールディングス株式会社(ANAHD)との間で、当社連結子会社である日本貨物航空株式会社の全株式をANAHDに対して譲渡することに関する基本合意書を締結しました。
物流事業
航空貨物取扱事業は、市況全体が低迷する中、取扱量も低調に推移しましたが、スポット案件の獲得や機動的な購買の見直しにより、一定の利益水準を確保しました。
海上貨物取扱事業は、取扱量は前期と比べて減少したものの、長期契約や付帯サービスの拡販により高い利益水準を確保し、物流事業全体の業績を牽引しました。
ロジスティクス事業は、欧米を中心に人件費、光熱費等のインフレに伴い価格改定を進めるとともに、需要の底堅い一般消費財の取扱いが事業を牽引し、堅調に推移しました。
内航輸送事業では、フィーダー貨物運賃高騰による好影響を受けました。
これらの結果、物流事業全体では前期と比べて、増収減益となりました。
●不定期専用船事業
自動車輸送部門では、世界的な半導体不足や新型コロナウイルス感染症による完成車生産への影響が徐々に緩和され、輸送台数は増加しました。港湾混雑や航海中の荒天影響が一部見られたものの、最適な配船計画と本船運航により、スケジュールへの影響を最小限に留めて顧客の輸送要請に柔軟に対応し、船舶の稼働率は向上しました。また、LNG燃料自動車専用船の第3船が竣工し、今後も順次竣工を予定しています。自動車物流でも、新車需給の回復に伴い各国において取扱台数を伸ばしました。また、電気自動車関連の業務分野を拡大しながら、事業ポートフォリオの組替えによる収益性の向上や低収益事業の縮小・撤退に取り組みました。エジプトでの新規自動車ターミナル開業に向けた準備等、新規投資も進めました。
ドライバルク事業部門では、ケープサイズの市況は、4月下旬以降季節外れの高騰が見られたものの、その後は上期を通じて低迷しました。10月になり市況が反転するも力強さに欠け、年末にかけ鉄鉱石輸送の駆け込み需要により再び反発したものの、市況は前期を大きく下回りました。パナマックスサイズの市況は、5月までは前年同期を上回る水準を保ったものの、その後はケープサイズの不調に合わせて下落しました。米国出し穀物の出荷が始まった9月から市況は回復を始めるも、ケープサイズの不調が重石となりました。ハンディマックス及びハンディサイズの市況もパナマックスサイズに同調する形で低迷し、ようやく2月下旬に季節的調整局面が終了して反転しましたが、前期を下回りました。全船型において市況は前期を下回りましたが、時機を捉え高市況下で獲得した輸送契約に加え、先物取引(Freight Forward Agreement = FFA)を用いた市況変動リスク低減の取組みが業績を下支えしました。また、長期契約獲得による収入の安定化と効率的な運航によるコスト削減に努めました。
エネルギー事業部門では、VLCC(大型原油タンカー)は、ロシア・ウクライナ情勢に端を発した米国の戦略石油備蓄放出をきっかけに、原油価格の軟化も相まって、特に米国・中東出し、欧州・アジア向けの荷動きが活発化して船腹需給が引き締まり、長らく低迷していた市況が7月頃から急回復しました。11月下旬に市況がピークに達した後、世界経済の減速懸念、産油国の減産、EUによるロシア産原油の禁輸措置やG7によるプライスキャップ制度の発動等により動きの激しい市況が続いたものの、総じて堅調な市況となりました。石油製品タンカーは、ロシア・ウクライナ情勢の影響で、欧州向け輸送において仕出地がロシアから米国や中東、インド等へ変更となり、輸送距離が増加したことで、船腹需給が引き締まり、市況は前期の水準を大きく上回りました。VLGC(大型LPGタンカー)は、米国から中国、インド、アジアへの長距離輸送が増加し、中東出し輸出も堅調な中、年末に向かって揚地やパナマ運河での滞船が加わり市況は大きく上昇しました。LNG船は、安定的な収益を生む長期契約に支えられて順調に推移しました。なお、第1四半期において、ロシア・ウクライナ情勢による事業環境の悪化により、サハリンⅡプロジェクトのLNG輸送に関連して特別損失を計上しました。海洋事業は、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)、ドリルシップ、シャトルタンカーが概ね想定どおりに順調に稼働しました。
これらの結果、不定期専用船事業全体では前期と比べて増収増益となりました。
●その他事業
不動産業
子会社株式の売却に伴い、前期と比べて減収減益となりました。
その他の事業
その他の事業は、燃料油販売事業及び船用品・船用資材販売事業が好調であったこと等から前期を上回る業績となりました。客船事業では、飛鳥Ⅱは、電気関係機器不具合のため休止していたクルーズを6月中旬より再開しましたが、乗組員の新型コロナウイルス感染、電気関係機器の追加対応が必要になったこと等によりニューイヤークルーズ、世界一周クルーズ、オセアニアグランドクルーズを中止しました。
これらの結果、その他の事業の業績は、前期と比べて増収となりましたが、損失を計上しました。
※各事業別の詳細につきましては、「事業別業績」(46ページ)をご参照ください。
③ 安全と環境技術への取組み
船舶の安全運航と環境保護、乗組員の健康は、当社グループのESG経営の根幹を成すものです。
独自の安全規格であるNAV9000、自社開発した安全管理システムNiBiKi、運航船の異常検知を目的とした陸上監視センターRDC等を適切かつ継続的に運用することにより、引き続き環境保護にも貢献する安全・確実な海上輸送を実現します。
当社は安全運航を担う大きな柱の一つとして、現場の人材(船員)育成を掲げており、長年培ってきた船員教育のノウハウを活かした当社独自の教育プログラムのもと、高度な運航技術を要するLNG船やVLCC、LNG燃料等の次世代燃料船にも対応出来る幹部職員など、幅広く優秀な船員の育成と確保に努めています。
当社グループでは、㈱MTIを核とし、㈱日本海洋科学を始めとするグループ会社や社外パートナーと共に、顧客や取引先も含めたESG経営に資するよう、デジタル技術を活用して当社グループのDX化を図る最先端の研究を日々行っています。社会的課題である温室効果ガス(GHG)削減のための研究、安全運航を目的とした自律操船の研究等も引き続き行いながら、新たに東京大学内に社会連携講座(MODE)を、複数の社外パートナーと共に開設しました。これにより上記の研究を更に進めるだけでなく、サステナブルな海上物流を実現する次世代のシミュレーション共通基盤の開発、デジタルエンジニアリングを活用した海事分野の技術開発、またこれらのモデルベース開発、モデルベース・システムズエンジニアリングの高度な知識を有する人材の育成等にも取り組んでいます。
グリーンビジネスへの取組みとして、アンモニア・水素を始めとするカーボンニュートラルな新燃料の導入及びサプライチェーンの構築、液化二酸化炭素の海上輸送、並びに海洋エネルギー開発について社外パートナーとともに複数の研究開発と事業開発案件を進めています。また、今後普及が見込まれる洋上風力関連事業についても引き続き積極的に推進します。
(2) 当社グループの対処すべき課題
①中期経営計画の遂行
<前中期経営計画の振り返り>
当社グループは、2018年度から5年間の中期経営計画 “Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”において、ボラタイルな事業環境や多様に変化する社会に対応すべく、3つの基本戦略の実行に取り組んでまいりました。「ポートフォリオの最適化」では、コンテナ船事業統合会社ONEは効率化と規模拡大効果により高収益を達成し、ドライバルク事業は事業の構造改革を実施し収益の下方耐性を強化しました。「運賃安定型事業の積み上げ」では、物流事業・不定期専用船事業において運賃安定型事業の収益を拡大し、「効率化と新たな価値創出」では、脱炭素化に向けた様々なグリーンビジネスに着手したほか、最新デジタル技術を駆使した取組みを強化しました。また、「ESGの経営戦略への統合」を明示し、ESGが企業経営の根幹であるとの認識のもと、当社グループ全体でESG経営への取組みを推進しました。これらの取組みの結果、前中期経営計画で掲げた利益・財務目標を達成しました。
<新中期経営計画 “Sail Green, Drive Transformations 2026 - A Passion for Planetary Wellbeing -”>
2023年3月、2023年度から開始する4年間の新たな中期経営計画 “Sail Green, Drive Transformations 2026 - A Passion for Planetary Wellbeing -”を策定しました。2030年に向けた新たなビジョン「総合物流企業の枠を超え、中核事業の深化と新規事業の成長で、未来に必要な価値を共創します」を掲げ、このビジョンの実現を目的とする2026年度までの4年間の行動計画として新中期経営計画を位置づけています。社会から必要とされ持続的に成長する企業を目指し、人口・グローバル化・テクノロジー・環境のメガトレンドの分析から2050年の事業環境を予測し、2050年のありたい姿からバックキャストし、中長期を見据えて策定しました。ESGを中核に据えた成長戦略を基本方針とし、環境問題を始めとする社会の課題の解決にも貢献することで、将来の収益力の最大化を図るとともに、企業価値・社会価値の持続的な創出に全力で取り組みます。
(経営戦略の位置づけ)

(経営戦略の全体像)
新中期経営計画は、両利きの経営(AX)と事業変革(BX)から成る「基軸戦略」の下、既存中核事業を深化させると同時に新規成長事業を進化させ、これを「支えの戦略」となる人材・組織・グループ経営の変革(CX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、エネルギートランスフォーメーション(EX)が支えます。

■基軸戦略 - 中核事業の深化と新規成長事業の進化
既存中核事業においては、脱炭素化需要の取り込みやM&Aの活用などを通じて、更なる成長を目指します。また、新たな組織能力を構築し、コアコンピタンスをベースに進化を遂げ、新規事業を創出します。
【中核事業】

【新規事業】

■支えの戦略
CX(人材・組織変革・グループ経営変革)では、グループ社員35,000人の能力を活かせるよう、人事・コーポレート部門を強化し、グループ全体でのビジョンの共有とエンゲージメントを高め、グループ企業の力を最大限発揮できるプラットフォームを整えていきます。また、ESG経営を確実に支えるための経営体制を強化します。その一環として、本定時株主総会でのご承認を条件に、監査等委員会設置会社へ移行します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)では、デジタル基盤の整備を推進することで変革を支え、ビジョンを実現するDXを推進します。EX(エネルギートランスフォーメーション)では、2050年ネット・ゼロ達成に向けた取り組みを計画的に加速します。2030年に向けたGHG削減戦略としては、4月に立ち上げたESG戦略本部が中心となり、サプライヤー各社と共創しながら4つの削減レバー(ハードウェア・燃料転換/最適運航/省エネ技術の実装/バイオ燃料の利用)でGHG排出量削減に取り組む体制を強化します。外航船舶の脱炭素化について、2030年までは、燃料転換の一環としてLNG焚きの新造船導入を推進することに加え、運航面でもGHG削減に寄与する技術を最大限活用します。2030年代半ば頃からは、アンモニア焚きの新造船を主軸に次世代ゼロエミッション船の本格導入・隻数拡大により燃料転換を一段と高め、GHG排出量削減を加速させます。
【EX - GHG削減戦略(Scope1)】

【EX - 外航船舶の脱炭素化に向けた打ち手】

■財務戦略
将来の安定的な株主リターンに繋がる投資対象に対して、2026年度までに総額1.2兆円規模の事業投資を実施します。また、資本効率向上を意識した株主還元を実施すべく、成長投資とのバランスを取りながらTSR(株主総利回り)の拡大に努めます。財務目標管理のKPIとしては、ROIC(投下資本利益率)を活用するとともに、非財務指標も設定します。中期経営計画最終年度は、連結経常利益2,700億円を目標としています。
【事業投資方針】

【株主還元方針】

【経営目標、財務計画の見通し】


② 遵法の徹底
当社グループは、遵法の徹底を最重要事項と位置付け、当社と国内外にある様々な事業を展開するグループ会社を対象にグローバルなガバナンス体制の構築を目指しており、以下の対策を着実に実行し、法令に則った公正な事業の遂行を徹底することに全力を尽くしてまいります。
- ・米州・欧州・東アジア・南アジアの各拠点にRegional Management Office(RMO)を設置
- ・ベストプラクティスの共有や課題の速やかな解決を図るため、Regional Governance Officerの下に法務担当や内部監査人を配置
- ・国内外グループ会社が制定している行動規準に対する誓約書の取得等の活動を継続
- ・独占禁止法の遵守を徹底すべく、社内各部門・グループ会社にヒアリングを実施し、これらを踏まえた独占禁止法に関する行動指針の作成、研修の実施
- ・コンプライアンス委員会や遵法活動徹底委員会の開催を通じ、独占禁止法対応に加え贈収賄・ハラスメント防止等、包括的な法令遵守体制の整備・強化
(3) 当社グループの資金調達及び設備投資の状況
当社グループの当期の所要資金は、主に自己資金、金融機関からの借入れで賄いました。当期末の有利子負債残高は、前期末と比べて1,142億円減少し、6,940億円となりました。
当社グループは、不定期専用船事業を中心に全体で1,988億円の設備投資を実施しました。定期船事業及び不定期専用船事業において、船舶を中心にそれぞれ57億円及び1,754億円、航空運送事業において航空機などに49億円、物流事業において輸送機器や物流施設・設備などに131億円、不動産業において7億円、その他の事業において11億円の設備投資を実施しました。