事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)
企業集団の現況
事業の経過及び成果
当社グループは、中長期的な成長及び企業価値の向上を図るべく、出版、映像、ゲーム、Webサービス、教育事業等において、多彩なポートフォリオから成るIP(Intellectual Property)を安定的に創出し、さらにテクノロジーをより一層活用することで、それらを世界に広く展開することを中核とする「グローバル・メディアミックス with Technology」の推進を基本戦略としております。
当連結会計年度における業績は、売上高2,554億29百万円(前年同期比15.5%増)、営業利益259億31百万円(前年同期比40.0%増)、経常利益266億69百万円(前年同期比31.9%増)、親会社株主に帰属する当期純利益126億79百万円(前年同期比9.9%減)となりました。
当連結会計年度における各セグメントの業績は、以下のとおりです。なお、成長・重点領域としての事業の重要性が今後さらに高まると見込んでいるため、当連結会計年度より、従来「その他」に含めておりました「教育」を報告セグメントとして記載する方法に変更しております。
当期の連結業績
各セグメントの業績
当連結会計年度における各セグメントの業績は、以下のとおりです。
売上高
(単位:)
出版事業では、書籍、雑誌及び電子書籍・電子雑誌の販売、雑誌広告・Web広告の販売、権利許諾等を行っております。当事業においては、メディアミックス展開の重要な源泉として年間約5,000タイトルにおよぶ新作を継続的に発行しており、蓄積された豊富な作品アーカイブが当社グループ成長の原動力となっております。
電子書籍・電子雑誌は、市場全体の成長が継続していることに加え、当社が得意とする異世界ジャンルのコミックやメディアミックス作品等を中心に他社ストア向け販売・自社ストア売上ともに好調に推移し、増収となりました。
書籍・雑誌では、日本IPの人気を背景として、北米・アジアを中心に海外事業の売上成長が継続しました。国内では、新刊点数の増加や継続的な返品率改善を実現したものの、市場全体の縮小影響が大きく、減収となりました。新刊では、『陰の実力者になりたくて!(8)』、『ファイブスター物語(17)』(コミック)、『パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち』(児童書)等の販売が好調に推移しました。権利許諾収入は増収となりました。
費用面では、中長期的な成長を見据えた人材への投資、インフレによる紙書籍の資材費等が増加しました。
この結果、当事業の売上高は1,399億90百万円(前年同期比5.3%増)、セグメント利益(営業利益)は131億55百万円(前年同期比24.3%減)となりました。
なお、さらなる返品削減、製造コスト削減、利益率の向上に向け、埼玉県所沢市において2021年4月より書籍製造ラインの稼働を開始し、文庫やライトノベル、新書、コミックス等のデジタル印刷による小ロット・適時製造を行っております。現在、製造ライン拡張を推進していることに加え、物流設備についても将来の稼働に向け、準備を進めております。
売上高
(単位:)
映像事業では、実写映像及びアニメの企画・製作・配給、映像配信権等の権利許諾、パッケージソフトの販売等を行っております。
アニメでは新作本数の増加に加え、メディアミックス作品である『オーバーロードⅣ』や『陰の実力者になりたくて!』等の国内向け配信売上や海外向け売上が伸長し、引き続き力強く成長しました。実写映像では、劇場新作『わたしの幸せな結婚』や制作受託の貢献により増収となりましたが、第2四半期に一部の作品において一過性の評価減が発生しました。
この結果、当事業の売上高は432億89百万円(前年同期比30.7%増)、セグメント利益(営業利益)は21億69百万円(前年同期比61.8%増)となりました。
売上高
(単位:)
ゲーム事業では、ゲームソフトウエア及びネットワークゲームの企画・開発・販売、権利許諾等を行っております。
記録的大ヒットとなったゲーム作品である『ELDEN RING』が増収増益に大きく貢献しました。なお同作は海外ゲームアワード「The Game Awards 2022」において「Game of the Year」を受賞しました。また、共同・受託開発事業や㈱スパイク・チュンソフトの新作、自社IPのモバイルゲーム化作品である『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』も増収に貢献しました。
この結果、当事業の売上高は303億51百万円(前年同期比55.7%増)、セグメント利益(営業利益)は142億18百万円(前年同期比173.4%増)となりました。
売上高
(単位:)
Webサービス事業では、動画コミュニティサービスの運営、各種イベントの企画・運営、モバイルコンテンツの配信等を行っております。
動画コミュニティサービスでは、動画配信サービス「ニコニコ」の月額有料会員(プレミアム会員)が3月末には131万人となり、前年3月末からは減少となりましたが、動画にアイテムを贈る「ギフト」や広告等の伸長により増収となりました。各種イベントの企画・運営では、今後のクリエイター投稿とユーザー視聴のさらなる増加を企図した『ニコニコ超会議2022』をリアル会場でも開催しました。コロナ禍ながら9.6万人が来場したことにより、チケット・物販売上が増収に貢献しましたが、大規模開催のための費用増加により、全体では減益となりました。
この結果、当事業の売上高は220億63百万円(前年同期比3.4%増)、セグメント利益(営業利益)は16億41百万円(前年同期比18.5%減)となりました。
売上高
(単位:)
教育事業では、専門学校運営及びオンライン教育のための教育コンテンツ・システム提供等を行っております。
クリエイティブ分野の人材育成スクールを運営する㈱バンタンでは、前期の新コース設立及び展開地域拡大や、ゲームクリエイターを多く輩出する「バンタンゲームアカデミー」等の生徒数が引き続き増加したことにより、増収増益に貢献しました。また、インターネットによる通信制高校であるN高等学校・S高等学校でも通学コース向け新キャンパスの開設等により生徒数が順調に増加しており、同校等に教育コンテンツ・システムの提供を行う㈱ドワンゴの収益貢献により、引き続き好調に推移しました。
この結果、当事業の売上高は124億75百万円(前年同期比15.5%増)、セグメント利益(営業利益)は17億68百万円(前年同期比138.2%増)となりました。
売上高
(単位:)
その他事業では、IP体験施設の運営、キャラクターグッズ等の企画・販売を行うMD事業等を行っております。
IP体験施設の運営では、集客に苦戦する中、ところざわサクラタウンにおける施設横断的なイベント展開等の取り組みもあり、増収となりました。MD事業においても増収となりました。また、その他新規事業では一部サービスの開始等により売上高・営業利益ともに改善しました。
この結果、当事業の売上高は171億99百万円(前年同期比49.7%増)、セグメント損失(営業損失)は45億35百万円(前年同期 営業損失49億26百万円)となりました。
東京2020オリンピック・パラリンピックのスポンサー選考にかかり、当社役職員が贈賄の容疑で逮捕・起訴されました問題につきましては、関係するすべての皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。
当社は、2023年1月23日に公表しましたとおり、本件に関する事実関係の調査、本件を生じさせた当社のガバナンス、内部統制を含めた根本的な原因の究明や再発防止策の提言を目的として設置されたガバナンス検証委員会より、同日付で調査報告書を受領しております。
当社はガバナンス体制をより強化するため、2023年5月11日開催の取締役会において、2023年6月22日開催の第9期定時株主総会に、指名委員会等設置会社への移行を内容とする定款一部変更の件を付議すること、及び同議案が株主総会において承認されることを条件として社外取締役を過半数とする指名委員会等設置会社移行後の役員の異動を決議いたしました。また、ガバナンス検証委員会のすべての提言項目に対応すべく、五輪事案の再発防止策具体化を目的として設置した経営改革推進委員会において、取締役会の監督機能強化と執行の役割分担明確化、企業風土の改善、法令順守意識の醸成等を検討のうえ、その結果を取締役会へ報告し、課題の解消を進めております。
対処すべき課題
当社グループを取り巻く事業環境は、国内出版市場においては電子出版が継続的に成長する中、紙出版は減少傾向が継続しています。一方で、海外でのコミック市場を中心とする日本コンテンツ需要の拡大が継続し、当社を取り巻く事業環境がますます国際化しております。
映画館やイベントについては、国内興行収入はコロナ禍前2019年の8割程度の水準に戻しており、規制緩和によりリアルイベント市場も回復傾向にあります。
また、映像配信、オンラインゲーム及びオンラインライブの普及により、デジタルのコンテンツ需要が世界的に高まるとともにコンテンツを中心に他者とつながる楽しみ方も広がっております。
こうした事業環境を捉え、当社は「グローバル・メディアミックス with Technology」を中期計画の基本方針とし、テクノロジーの進化を柔軟に取り込み事業のデジタルシフトを進めながら、IP創出と海外展開を強化するとともに、ファンコミュニティ運営を強化することで、IP価値の最大化と継続的な業績拡大に努めてまいります。
加えて、クリエイティビティ、モチベーション、テクノロジーをキーワードに従業員一人ひとりが創造性を最大限発揮できる社内基盤整備を継続し、イノベーション創出に挑戦してまいります。
事業別の状況及び課題は以下のとおりです。
[出版事業]
引き続き強力なIPの創出に努め、グローバルな作品流通を増やすとともに、国内では製造・物流の改革による返品率のさらなる改善や編集DXによる生産性の改善を進めてまいります。
IP創出においては、国内での小説投稿サイト「カクヨム」や「魔法のiらんど」等を通じたネット投稿作品の開発を継続強化するとともに、海外子会社と一体となってグローバルに作品を開発してまいります。また、スマートフォン読者層を拡大するため、縦スクロール漫画についても専用レーベル「タテスクコミック」を中心に開発本数を拡大してまいります。
グローバルな作品流通においては、多言語化の制作投資を行い、電子書籍でのサイマル流通や紙書籍での流通を拡大してまいります。
雑誌では、Webメディアを中心にデジタルシフトをさらに進めながら、収益性の向上に取り組んでまいります。
電子書籍では、電子書籍配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」において英語圏・繁体字圏に続いてタイ語での展開を2023年3月28日より開始いたしました。またIP創出においても、英語、中国語、マレー語、タイ語の賞を設けた「TATESC COMICS Global Awards」を開催しており、縦スクロール漫画、コミック、及びライトノベル等のテキスト系コンテンツのグローバル市場開拓に引き続き注力してまいります。
また、動画や音声コンテンツによる新たな体験価値の創出、児童書等の商品化の拡大、dマガジン等の他プラットフォームとの連携、及び電子書籍のサブスクリプションサービスを推進し、多様な楽しみ方を世界中の読者に提案してまいります。
[映像事業]
映像では、グローバルな映像配信に対応した企画制作一気通貫のIP創出体制を確立するべく、映像製作力の強化を進めております。
アニメでは引き続き自社制作力を強化し良質な作品をラインナップしながら制作規模を拡大してまいります。また、北米を中心とするマーケティングを強化し作品認知度を上げ、国内及び海外市場における権利販売や映像配信事業に注力してまいります。
実写映像の製作・配給におきましては、予算や契約の管理強化を含めた総合的な製作力の強化を進めてまいります。また、映像配信市場に対応した映画やドラマの海外企業との共同製作を推進するとともに、視聴態様の多様化に対応するための新たな枠組を引き続き検討してまいります。
[ゲーム事業]
ゲームでは、国内を含む世界市場が拡大する中で、当社原作のスマートフォンゲーム開発実績が出始めており、今後は開発ラインを拡大しながら、メディアミックスによるさらなる収益力の向上を図ってまいります。
PCや据置機のゲームにおいては、『ELDEN RING』の記録的大ヒットによるブランド力や開発力の高さを活用し、『ARMORED CORE』等の当社グループのシリーズタイトルの開発や他社からの受託開発を引き続き行ってまいります。
[Webサービス事業]
Webサービスでは、ニコニコのプレミアム会員数を増加に転じさせるための継続的な取組みとニコニコチャンネルにおけるファンコミュニティの強化を行ってまいります。また、サービスの向上と開発効率の向上及び長期的な費用低減を行うため、クラウドサーバを活用したデジタルインフラへの投資を継続的に行ってまいります。
各種イベントの企画・運営では、2023年4月22日~4月30日の9日間にわたり日本最大級のユーザー参加型イベント「ニコニコ超会議」を開催いたしました。ネットとリアルのハイブリッドで開催し、4月29日~30日の幕張メッセでのリアル開催には昨年比24%増の11万8,797人にご来場いただきました。こうした大型イベントでユーザーの一体感と満足度を高めるとともに、ネットでの投稿や視聴を促進しユーザーの参加機会を拡大いたします。同時にイベントの選択と集中を高め収益の改善を図ってまいります。
[教育事業]
教育事業では、インターネットによる通信制高校であるN高等学校及びS高等学校の継続的な生徒数増加に伴い、両校等への教育コンテンツ提供事業が成長しているとともに、VR学習教材を提供することで教育コンテンツの高度化も進めております。今後もより付加価値の高いコンテンツを提供することで収益拡大を目指してまいります。
㈱バンタンにおいては、マンガやアニメ等グループシナジーを活用した分野の新コース設立、及び既存コースのエリア拡大により継続成長を図ってまいります。
[その他事業]
その他事業では、角川武蔵野ミュージアム、イベント、飲食などの商業施設を展開するところざわサクラタウンをはじめとするIP体験施設運営事業に関し、収益改善が困難なEJアニメホテル及び成田アニメデッキについて運営事業からの撤退と2023年上期中の営業終了を決議し、持続可能な事業への再編成を進めております。
今後のさらなる来場者増に向けて、企画イベントの質的向上やIP体験施設運営事業のノウハウを他施設に展開することで、引き続き収益力を高めてまいります。