事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)
事業の経過およびその成果
2020年度のわが国経済は,新型コロナウイルスの影響により,年度当初から急速に悪化しました。夏頃からは持ち直しの動きもみられたものの,年度を通じて厳しい状況となりました。中部地域においても概ね同様の傾向にありました。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う,暮らしや働き方などの新しい生活様式の浸透とともに,デジタルトランスフォーメーション(DX)・脱炭素化への取り組み加速により,社会構造そのものが大きく変容しています。とりわけ2050年カーボンニュートラル実現を目指した国の政策目標が掲げられる中で,次期エネルギー基本計画の検討が進められるなど,エネルギー事業を取り巻く環境は大きな転換点を迎えております。当社においては,カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを「ゼロエミチャレンジ2050」としてとりまとめ,中部電力グループが一体となって取り組む新たな目標を定めました。
2020年度,送配電部門を中部電力パワーグリッド,販売部門を中部電力ミライズにそれぞれ分社した当社は,これらにJERAを加えた3つの事業会社を核とする体制となりました。パワーグリッドにおいては,一層の中立性・公平性を図るとともに,ミライズ・JERAにおいては,それぞれの市場,お客さまと向き合い,より強靭な企業グループへの成長を目指してまいります。
分社にあたっては,各事業会社が自律的な経営体制を整えることを通じて,さまざまな環境変化への機動的な対応を自ら行うことを基本としつつ,エネルギーサプライチェーンが事業会社ごとに分かれることを踏まえ,親会社である当社が中長期的な視点にもとづき,グループ全体を調整・統制し全体最適を図ることで,事業会社に対するガバナンスを確保しています。

分社化し,新たな事業体制へ移行
このような新たな事業体制のもと,グループを挙げてエネルギーの安定供給に努めるとともに,お客さまの期待を超えるサービスを実現・提供することにより,中部電力グループ全体の持続的成長と企業価値の向上を果たしてまいります。

分社後も各事業が,各々の役割を自律的に責任をもって果たすことを通じ,
グループを挙げてエネルギーの安定供給に努めています
2020年度の電力供給につきましては,当社水力発電所の安定的な運用,JERAや他事業者からの受電などにより,年度を通じて安定的に電力を供給することができました。また,今冬における寒波の影響などにより,全国的に電力需要が増加し需給がひっ迫した際には,中部エリアにおいても厳しい状況となりましたが,JERAの火力発電所の増出力運転や,お客さまや事業者のみなさまに電気の効率的なご使用や自家用発電設備の焚き増しなどのご協力をいただいたことにより,必要な供給力を確保することができました。
浜岡原子力発電所につきましては,従前より自主的に地震・津波対策や重大事故対策に取り組んでまいりましたが,原子力規制委員会が策定した新規制基準を踏まえて,さらなる安全性向上対策を進めるとともに,3・4号機について同委員会による適合性確認審査を受けております。4号機の設備対策の主な工事については概ね完了しておりますが,今後も,審査対応などにより必要となった追加の設備対策については,可能な限り早期に実施してまいります。
また,防災体制の整備や教育・訓練の充実を図るとともに,住民避難を含む緊急時対応の実効性向上に向けて,国・自治体との連携を一層強化しております。

浜岡原子力発電所
再生可能エネルギーにつきましては,2017年度比で「2030年頃に200万kW以上の開発」を目標に掲げ,グループ一体となって,国内全域で水力をはじめ陸上風力や洋上風力,太陽光,バイオマスなどの新規電源の開発に取り組んでおります。2020年度末時点における開発決定済持分出力は,グループ全体で約56万kWとなっており,目標の200万kWに対して28%程度の進捗となっております。
中部電力グループは,再生可能エネルギーの導入拡大に加え,安全を大前提とした原子力発電の活用を進めるとともに,中部電力パワーグリッドにおける次世代型ネットワークへの転換や中部電力ミライズにおけるCO2フリーメニューや太陽光発電の自家消費サービスなど,発電・送配電・販売のすべての事業分野において,脱炭素社会の実現に向けた取り組みを強化しております。

再生可能エネルギー開発目標と進捗
2020年度の当社連結収支の状況につきましては,連結売上高(営業収益)は,新型コロナウイルス感染症の影響による販売電力量の減少などから,前年度と比べ4.3%減少し2兆9,354億円となりました。
連結経常利益は,販売電力量の減少など新型コロナウイルス感染症の影響や,燃料価格の変動が電力販売価格に反映されるまでの期ずれ影響において,差益が縮小したことなどはありましたが,グループを挙げた経営効率化に努めたことや今冬の需給ひっ迫に伴い実施した中部エリア外への電力融通などによる収益の増加や,JERAにおいて前年度発生したLNG売却関連損失の反動などから0.2%増加し1,922億円となりました。
なお,期ずれ影響を除いた連結経常利益は,1,690億円程度と,前年度に比べ160億円程度の増益となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は,10.0%減少し1,472億円となりました。



ミライズ
(中部電力ミライズ株式会社およびその子会社,関連会社)

〔事業の内容〕
ガス&パワーを中心とした総合エネルギーサービスの展開
〔業績〕
2020年度の中部電力ミライズの販売電力量は,新型コロナウイルス感染症の影響による電力需要の減少などから,前年度と比べ5.6%減少し1,107億kWhとなりました。
中部電力ミライズおよびその子会社,関連会社の合計の販売電力量は,前年度と比べ4.4%減少し1,171億kWhとなりました。
売上高につきましては,販売電力量の減少などから,前年度と比べ9.1%減少し2兆4,182億円となりました。
経常利益は,電源調達コストの低減に努めましたが,販売電力量の減少や今冬の需給ひっ迫期間における調達環境の悪化影響などから,15.9%減少し380億円となりました。

〔2020年度の取り組み〕
「とどける」「よりそう」「つなげる」をキーワードに,お客さまの暮らしを豊かにし,ビジネスを支えるサービスを展開しております。
具体的には,新型コロナウイルスの影響で増加した在宅時間を快適にお過ごしいただくための夏の生活応援割引を実施いたしました。今後は,電気・ガスに加えて,エネルギーマネジメントやヘルスケアなどのサービスを,デジタル技術を活用しながらお客さま一人ひとりに合わせてパーソナライズ化したうえで提供してまいります。
また,当社の強みである技術力を活かし,ビジネスのお客さまとともに省エネに取り組んでおります。さらに,信州の水でつくられたCO2フリー電気「信州Greenでんき」や,中電Looop Solarによる太陽光発電の自家消費サービスなど,再生可能エネルギーの地産地消・普及拡大を進めており,脱炭素社会の実現に貢献するサービスをお届けしております。

お子さまの生活環境が大きく変化した中
在宅時に安心してエアコンなどを
ご利用いただけるよう割引を実施

法人のお客さまに初期費用を
負担いただくことなく太陽光発電を
ご利用いただけるサービスなどを展開
パワーグリッド
(中部電力パワーグリッド株式会社およびその子会社,関連会社)

〔事業の内容〕
電力ネットワークサービスの提供
〔業績〕
2020年度の中部エリアの需要電力量は,夏季および冬季の気温影響による空調設備の稼動増はありましたが,新型コロナウイルス感染症の影響などから,前年度に比べ2.4%減少し1,239億kWhとなりました。
売上高につきましては,需要電力量の減少はありましたが,再生可能エネルギー特別措置法にもとづく交付金の増加や今冬の需給ひっ迫に伴い実施した中部エリア外への電力融通などによる収益の増加などから,前年度と比べ12.1%増加し8,428億円となりました。
経常利益は,需要電力量の減少はありましたが,需給ひっ迫影響による収益の増加などから,22.7%増加し588億円となりました。

〔2020年度の取り組み〕
再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため,接続可能量の増大に向けて電力系統設備・運用の高度化に取り組むとともに,中部エリアの安定供給に必要な予備力・調整力の確保や,他エリアとの電力融通の拡大に向けた設備増強を着実に進め,需給安定に努めております。
本年3月には東京中部間(50・60Hz地域間)を連系する飛騨変換所(容量90万kW)が運用を開始し,相互融通能力が120万kWから210万kWへ増加しました。
また,設備の劣化状況およびリスク量を考慮した適切な更新計画を策定すべくアセットマネジメントシステムを一部導入するとともに,トヨタ生産方式を通じた効率化などを一層進め,安定供給と低廉な託送料金の実現に努めております。
さらに,今冬の全国的な需給ひっ迫に関しては,JERA,ミライズをはじめ,お客さまやその他事業者さまなどの協力を得て,中部エリアの安定供給に取り組むとともに他エリアのひっ迫解消に貢献しており,他の一般送配電事業者とともに全国の需給安定にも取り組んでおります。

飛騨変換所の位置と全景

トヨタ生産方式を通じた
変電機器点検業務のかいぜん活動
JERA


(株式会社JERAおよびその子会社,関連会社)
〔事業の内容〕
燃料上流・調達から発電,電力・ガスの販売
〔JERAによる当社業績への貢献〕
JERAによる当社連結経常利益への貢献は,コスト競争力の強化および新たな収益源の創出に努めたことや,前年度発生したLNG売却関連損失の反動などはあったものの,期ずれ差益が縮小したことや新型コロナウイルス感染症の影響などから,7.8%減少し656億円となりました。
(注)JERAは持分法適用関連会社のため,JERAの売上高は当社連結財務諸表へ計上されません。
〔2020年度の取り組み〕
燃料上流・調達から発電,電力・ガスの販売にいたる一連のバリューチェーンを最適に運用するとともに,JERAのスケールメリットを活かすことにより,火力発電事業の効率的な運営に努めております。
「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」,「クリーン・エネルギー経済へと導くLNGと再生可能エネルギーにおけるグローバルリーダー」というミッションとビジョンの達成に向け,台湾の洋上風力発電事業およびバングラデシュのガス火力発電事業の開発など,さまざまな事業を展開しております。
また,「JERAゼロエミッション2050」を公表し,2050年時点で国内外のJERA事業から排出されるCO2の実質ゼロ※に挑戦しております。
※「JERAゼロエミッション2050」は,脱炭素技術の着実な進展と経済合理性,政策との整合性を前提としています。
JERAは,自ら脱炭素技術の開発を進め,経済合理性の確保に向けて主体的に取り組んでまいります。

世界有数規模の
洋上風力プロジェクトに参画
(フォルモサ1〔台湾〕)

バングラデシュでの
新規ガス火力発電所の開発
(完成イメージ〔サムスンC&T提供〕)

国内初となる
船から船へのLNG燃料の供給
(LNGバンカリング船「かぐや」)
対処すべき課題
中部電力グループは,2020年代後半を目標とした経営ビジョンにおいて,連結経常利益を2,500億円に拡大すること,ならびにビジネスモデルの転換により,国内エネルギー事業と,新しい成長分野や海外事業などの事業ポートフォリオを1:1の比率に変えていくことを掲げております。
この経営ビジョン実現のために,良質なエネルギーを安全・安価で安定的にお届けするという「変わらぬ使命の完遂」に加え,お客さまのニーズに寄り添った新しいサービスをあわせてご提供するという「新たな価値の創出」に取り組み,期待を超えるサービスを,先駆けてお客さまへお届けする「一歩先を行く総合エネルギー企業グループ」の実現を目指してまいります。
さらに,中部電力グループの新たな挑戦「ゼロエミチャレンジ2050」では,2050年に事業全体のCO2排出量ネット・ゼロにする目標を掲げ,カーボンニュートラル実現に貢献してまいります。

ご参考当社が展開する海外事業
送電・配電・再生可能エネルギー発電・小売(新サービス)の4事業をターゲットに海外で事業展開し,新たな収益源の獲得およびESG経営の深化に貢献してまいります。
2020年3月に買収したEnecoを欧州戦略上のプラットフォームと位置付け,再生可能エネルギー発電・小売(新サービス)などの成長領域を拡大してまいります。

【浜岡原子力発電所の活用】
浜岡原子力発電所は,「福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こさない」という固い決意のもと,安全性向上対策を進めており,原子力規制委員会による新規制基準への適合性確認審査を受けております。基準地震動・基準津波が概ね確定した後は,プラント関係審査に対応していくとともに,これらにもとづき安全性向上対策の有効性をはじめ浜岡原子力発電所の安全性に係る理解活動を実施してまいります。
当社は,政府が示している2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ目標達成に向けて,発電時にCO2を排出しない電源である原子力発電が果たす役割は大きいと考えています。
今後も,新規制基準への適合性確認を早期にいただけるよう最大限努力するとともに,安全性を自主的により一層高める取り組みを継続的に行い,浜岡原子力発電所を重要な電源として引き続き活用するための準備を進め,これらの取り組みについて,地域をはじめ社会のみなさまにご理解賜るよう全力で取り組んでまいります。

発電所前面に設置した防波壁
(海抜22m 全長1.6km)

緊急時対応スペシャリストチームの
増強による現場対応力の強化

御前崎海上保安署・御前崎市・
御前崎市消防本部・菊川警察署との連携訓練

地域のイベントなどでブースを設置し
発電所の取り組みを説明する発電所キャラバン
【レジリエントで最適なエネルギーサービスの提供】
至近の自然災害を踏まえ,社会・お客さまとの情報連携および設備復旧体制の強化に取り組み,中部電力グループ一体となって災害対応を実施してまいります。また,再生可能エネルギーの導入拡大により電気の流れが変化する中,電源の広域的な活用と地産地消の進展を両立する次世代送配電網を整備し,安定供給・レジリエンス(強靭性)向上に努めてまいります。
また,接続する電源,蓄電池,EV・太陽光発電などの分散型電源を活用しアグリゲートサービス※を展開してまいります。
※分散型電源や需要などを,通信技術により集約し,電力使用量の調整や蓄電池への充放電の指示などを通じて,流れる電気の量を調整することで,お客さまのエネルギーコスト削減,再生可能エネルギーの出力抑制回避などのさまざまな価値を提供するビジネス

【コミュニティサポートインフラを活用した新たな価値の提供】
当社は,「お客さま起点」「脱炭素化」「デジタル化」をキーワードに,省エネや快適な住環境から,医療・介護・見守り,さらには防災や防犯など人や地域の安全に至るまでさまざまな領域で「つながることで広がる価値」を提供する「コミュニティサポートインフラ」を構築・提供する取り組みを進めております。
暮らしを便利で豊かにするサービスを提供できるよう,セキュリティの確保を前提として,当社の強みであるエネルギーをはじめとするさまざまなデータを活用することで,お客さま一人ひとりに寄り添ったサービスをお届けし,お客さま体験の最大化を進めてまいります。


中部電力グループの事業活動はESG(環境・社会・ガバナンス)そのものであるとの認識のもと,従業員一人ひとりの活動の総和で,ESG経営を深化させ,SDGsの課題解決にも貢献してまいります。
当社および中部電力ミライズは,本年4月13日,中部地区等における特別高圧電力および高圧電力の供給ならびに中部地区における低圧電力および都市ガス供給等に関して独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いがあるとして,公正取引委員会の立入検査を受けました。みなさまにはご心配をおかけしておりますが,立入検査を受けた事実を真摯に受け止め,公正取引委員会の調査に対し,全面的に協力しております。
中部電力グループは,お客さまや社会からの信頼が事業運営の基盤であることを肝に銘じ,コンプライアンスを徹底するとともに,良き企業市民としてのCSR(社会的責任)を完遂してまいります。

中部電力グループのESGの取り組みに関しては,ホームページに詳しく記載しておりますので,ぜひご覧ください。