事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当連結会計年度における世界経済は、コロナ禍からの経済活動の再開により景気回復が進んでいる一方、長期化するウクライナ情勢の悪化に伴う地政学リスクの高まり、資源価格の高騰、金利上昇による世界経済の減速が懸念される状況となっております。

当社グループがビジネスを展開する地域を概観すると、グレーターチャイナでは、ゼロコロナ政策撤廃直後の感染急拡大によって主に製造業の操業に影響が生じたものの、その後の感染収束により経済活動並びに景気は回復基調となっています。米州では、インフレの影響による企業のコスト増と、インフレ抑制のための金融引き締めが住宅・設備への投資を抑制させ、景気は緩やかに減速しました。アセアンでは、米国の利上げによる通貨安に伴って輸入物価が上昇するといったマイナス要因はありますが、個人消費が拡大し景気は堅調に推移しています。日本では、原材料やエネルギーコスト上昇分の価格転嫁によるインフレ傾向がみられるものの、内需は拡大し、またコロナ制限の緩和や円安の影響によるインバウンド需要の回復等により、景気は回復基調にあります。

このような状況の下、当連結会計年度の業績は次のとおりとなりました。

  • ・当連結会計年度の業績は、為替が円安に推移したものの、売上総利益率の低下や販売費及び一般管理費が増加したこと等により営業利益は減益となりました。
  • ・セグメント別では、生活関連セグメントがPrinovaグループの牽引により増益となったほか、機能素材セグメントおよびモビリティセグメントが引き続き好調に推移した一方で、加工材料セグメントおよび電子・エネルギーセグメントは減益となりました。詳細は「セグメント別の概況」をご覧ください。
  • ・親会社株主に帰属する当期純利益については、営業利益の減少に加え、金利の上昇に伴う支払利息の増加等により、23億円減少の236億円となりました。

セグメント別の概況

セグメント別の業績および主な要因は、次のとおりであります。

機能素材

売上総利益 223 億円
前連結会計年度比 12.9 %増
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機能素材につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・市況の高騰や円安影響もあり、塗料・ウレタン原料の販売が増加
  • ・加工油剤・樹脂関連の原料販売が増加
  • ・半導体関連等の電子業界向けの原料販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

加工材料

売上総利益 317 億円
前連結会計年度比 1.7 %減
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加工材料につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・OA・ゲーム機器業界向け等への樹脂販売は円安による増益影響もあったが、前期の市況高騰による利益率上昇の反動等もあり、収益性が低下
  • ・顔料・添加剤の販売は横ばいだが、工業用・包装材料用途の樹脂の販売は堅調
  • ・導電材料、情報印刷関連材料の販売は減少
  • ・営業利益は販売費及び一般管理費が増加したことにより、減益

電子・エネルギー

売上総利益 307 億円
前連結会計年度比 3.4 %増
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電子・エネルギーにつきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・半導体用途向けの材料販売が増加
  • ・ディスプレイ用途のフォトリソ材料等の販売は低調
  • ・変性エポキシ樹脂関連の販売は、半導体用途向けおよびモバイル機器向けが低調
  • ・営業利益は売上総利益が増加したものの、販売費及び一般管理費が増加したことにより、減益

モビリティ

売上総利益 144 億円
前連結会計年度比 13.5 %増
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モビリティにつきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・樹脂の販売は自動車生産台数の増加に加え、円安による影響等もあり好調
  • ・内外装・電動化用途の機能素材・機能部品の販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

生活関連

売上総利益 559 億円
前連結会計年度比 24.9 %増
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生活関連につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・Prinovaグループは食品素材の販売が上期特に好調だったこともあり、全体として堅調を維持
  • ・林原はトレハ®等を中心とした食品素材の販売は増加したが、AA2G®等を中心とした香粧品素材は主に海外での需要の減少を受けて販売が減少
  • ・中間体・医薬品原料、香粧品素材の販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益
その他

特記すべき事項はありません。

対処すべき課題

中期経営計画ACE 2.0

当社グループ(以下、NAGASE)は、2032年(創業200年)の「ありたい姿」からバックキャスティングし、特定したマテリアリティを解決するために5ヶ年の中期経営計画ACE 2.0を策定しました。ACE 2.0の位置づけを“質の追求”と掲げ2021年4月から始動しており、ACE 2.0に掲げる事項を対処すべき課題と捉えております。

※“ACE”は、Accountability(主体性)、Commitment(必達)、Efficiency(効率性)を表します。

ACE 2.0の定量目標および実績

ACE 2.0の定量目標および実績は、下表のとおりです。

2022年度は、ロシア・ウクライナ紛争の影響による原材料・ユーティリティコストの高騰や中国におけるロックダウン、経済の低迷等の影響を受けたスマートフォンを中心としたモバイル機器の需要の低迷等の影響により、製造ビジネスにおいては特に厳しい環境となりました。また、全世界的な物価の高騰と対抗策としての各国における政策金利の引上げによる金利負担の増加等、経営環境は目まぐるしく変化しました。

このような状況の下、2021年度はKGI(Key Goal Indicator)として掲げる営業利益350億円に到達しましたが、2022年度は目標とする水準を下回る結果となりました。

しかしながら、サプライチェーンが不安定な状況においても供給を維持したことによるシェア拡大、注力領域における各種取組みの前進等、“質の追求”は着実に進んでおります。

後記の基本方針のもと、引き続きACE 2.0を推進していきます。

ACE 2.0基本方針

ACE 2.0では、NAGASEの持続的な成長を可能にするため、すべてのステークホルダーが期待する“想い”を具体的な“形”(事業・仕組み・風土)として創出し、“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”を目指し、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革と、両変革を支える機能として、DXのさらなる加速、サステナビリティの推進およびコーポレート機能の強化を図ります。

収益構造の変革‐“ありたい姿”に向けた収益基盤の構築

経営資源の最大効率化を図るために、経営資源の確保と再投下を実行いたします。効率性および成長性の観点から、事業を「注力」、「育成」、「基盤」、「改善」の4つの領域に分類し、各領域に応じて戦略を実行し、さらにリソースシフトを加速させるべく、全社投下資本の10%を確保した上で注力/育成領域に再投下していきます。また既存事業の強化にあたり、グローバリゼーションによる事業機会の拡大および製造業の生産性向上と技術革新による付加価値の拡大を図ります。加えて、DXの活用等により顧客、社会との接点を増やし、そこから見つけた新たな課題に対し、「利益を生み出す解決策」を提供することで、社会・環境価値向上に向けた“持続可能な事業”(=N-Sustainable事業)の創出を図っていきます。

(事業ポートフォリオの考え方)
[取組み状況]
(注力領域)

フード関連事業は、特に2022年度前半においてはサプライチェーン上で調達、物流面の混乱が続く中、顧客への供給を継続できたことにより顧客基盤・シェアのさらなる拡大が進みました。また、スポーツニュートリション製品の受託製造ビジネスにおける新たな拠点として米国ユタ州・ソルトレークシティに工場を建設し、生産を開始しました。足元では立上げに伴う一時的なコスト増加の影響等もあり費用先行の状況ですが2023年度以降の利益貢献を見込んでおります。

半導体関連事業は、サプライチェーン全体をカバーする当社の特徴を活かして、グループ内における情報共有・連携強化の促進、技術革新・最新の開発トレンドの理解と将来におけるビジネスの企画・立案サポートを通じて、顧客への課題解決力を強化しました。また、日本・韓国・中国・台湾における商社ビジネスの取扱い品目の拡充や製造ビジネスにおける自社製品の販売拡大が進みました。その他地域においては、米国における半導体事業のさらなる拡大に向けて引続き検討を進めてまいります。

バイオ関連事業は、ナガセバイオイノベーションセンターおよび2022年度期初に創設したNAGASEバイオテック室を中心としてNAGASEにおけるバイオのあるべき姿、事業について検討を進めました。2022年度、バイオ事業における中核である㈱林原とナガセケムテックス㈱の生化学品事業の統合を決定・推進し、より一層のグループシナジー発揮のための基盤構築が進みました。また、NAGASEが保有する発酵技術を用いた希少アミノ酸エルゴチオネインの生産プロセスの実用化についても取組みを続け、一定の成果が見られました。

(育成領域)

AR(拡張現実)関連分野向けの自社ブランド素材の開発や、新規素材開発等の分野でノウハウを持つスタートアップ企業との協業を引続き進めるとともに、自動運転、化学品の共同輸送マッチングサービス等、従来の商社業とは異なる新たなビジネスモデルの創出に向けた検討・実証を進めました。

(基盤領域)

収益性の向上に加え、投下資本の削減の取組み等による効率性の向上を図りました。また、より高い価値提供を実現するために環境対応素材の取扱いの拡充やデジタルを活用した営業活動の効率化等の取組みも進めました。

(改善領域)

改善が必要と判断したビジネスについては、改善方針に沿ってKPIを設定しモニタリングすることで改善の徹底を図っています。なお、2022年度は一部不採算事業からの撤退、子会社売却による資本の確保等を行いました。

2022年度は、上記のとおり引続き改善領域からの資本の確保、注力領域に対する資本投下を推進しました。今後、全社規模での事業の入替えをさらに加速させていきます。

なお、ナガセケムテックス㈱におけるスマートフォンの需要減少、㈱林原におけるユーティリティコストの上昇を受けた販売価格の改定の遅れ等の影響もありグループ製造業の利益は減益となりました(単純合算製造業営業利益144億円)が、2023年度は回復を見込んでおります。今後も拡大を見込む製造関連ビジネスにおいて、グループ製造業各社の強化・拡充を推進することを目的として2022年度期初に創設したグループ製造業経営革新室※はグループ製造業における個社が抱える課題解決のサポート、個社間の有機的な連携を促進するための活動を実施しました。

※グループ製造業経営革新室:グループ製造業各社の製造能力、生産技術、研究開発、品質管理、エンジニアリング、投資評価等を俯瞰し、製造業の強化・拡充を推進することを目的とする組織

企業風土の変革‐“ありたい姿”に向けたマインドセット

「質の追求」を実現するためには、経済価値と社会価値を両輪で追求していくことが必要と考え、財務情報に加え非財務情報のKPIを設定し、両KPI達成に向け徹底したモニタリングを行います。また効率性の追求に向け、コア業務の生産性の改善を図り、また事業戦略によるROICの向上、財務戦略によるWACCの低減を行い、ROICスプレッドの改善を図ります。ROICがWACCを上回る状態を常態化させ、企業価値の向上を目指します。加えて、変革を推進する人財の強化が必要と考えており、社員と会社のエンゲージメントを向上させ、双方の持続的な成長と発展を実現します。

(効率性の追求)
(エンゲージメントの向上)
[取組み状況]

2022年度は、ロシア・ウクライナ紛争による継続的な物流網の混乱、エネルギー価格の高騰、上海ロックダウンによる需要の減速等、厳しい事業環境が続きました。このような状況のもと、特に製造関連ビジネスにおける減益の影響が大きく、営業利益が当初計画には届きませんでした。

運転資本については、サプライチェーンの混乱が継続する中でも供給を維持できたことにより商社ビジネスが全般的に好調だったことや、前年度政策的に増やした在庫が引続き高い水準であること、為替水準が期初想定を大きく上回る円安となったこと等の影響から増加しました。株主資本については、資本効率の改善・適正化に向け、中期経営計画で掲げた株主還元方針に沿った増配、自己株式の取得を継続しました。有利子負債については、運転資本の増加を受けて増加しました。

このような状況のもと、ROICは4.4%、WACCは主にリスクフリーレート上昇の影響もあり5.7%、Net DEレシオは0.38倍となりました。なお、政策保有株式の売却は予定通り進捗しており、引続き縮減を図ってまいります。

2023年度は、米中の貿易摩擦による半導体のサプライチェーン混乱の懸念等もありますが、全般的な事業環境の改善、製造関連ビジネスにおける収益性の回復が期待できることから業績は再び拡大する見通しです。運転資本については2022年度下期から適正化に向かっておりますが、さらなる改善を見込んでおります。効率的な事業への資本集中を通じた事業拡大の加速、有利子負債および株主資本の適正なコントロールを通じて、引続きACE 2.0のもと「質の追求」を推進していきます。

(政策保有株式の売却実績)

ROICについては、事業毎に定量化・可視化を進めモニタリングができる体制を構築し、定期的なモニタリングを実施しております。

またコア業務の生産性の改善に向け、シェアードサービス会社である長瀬ビジネスエキスパート㈱においてBPR(Business Process Reengineering)を行い、引続き業務効率化を進めるとともに、国内グループ会社を中心に受託業務を拡大する等、グループ全体の生産性の向上に資する施策を推進しました。BIツール(Business Intelligence tools)やCRM(Customer Relationship Management)等を活用した間接業務ならびに営業・販売活動の効率化についても引続き推進しております。

変革を推進する人財の強化については、D&I(Diversity&Inclusion)に関する議論を進め、特に女性の活躍に関して検討を深め、女性管理職比率等の新たな定量目標も定めました。また、2022年8月より本社建替えに伴う東京本社移転を機にABW(アクティビティ・ベースド・ワークプレイス)を導入し、オフィスで働く場所を自由に選択できる働き方を導入しました。結果として、組織間でのコミュニケーションが活発化する等の変化が生まれました。なお、エンゲージメントについては現状の定点把握と向上施策の策定・効果測定のためのサーベイを実施するとともに、マネジメントと従業員との多様な対話機会の設定、各組織においてエンゲージメント向上に繋がった施策をグループ内で横展開する等、グループ全体で底上げするための取組みも実施しました。

変革を支える機能

両変革を実現するために、DX、サステナビリティおよびコーポレート機能はグループ横断的に必要な機能であり、これらの機能を拡充します。

DXを手段として活用することで、NAGASEの強みである「広域なネットワーク」、「技術知見」および「課題解決力・人財」をさらなる強みとし、顧客や社会の課題を解決できるビジネスモデルの深化・探索、イノベーションの創出および生産性の向上等を図ります。

またサステナビリティ基本方針を根幹に置き、「ありたい姿」の実現に向け、経済価値と社会価値の追求を実現すべく、グループ全体に機能を提供していきます。

[取組み状況]

DXのさらなる加速に関して、デジタルマーケティングによる顧客基盤の強化・拡大に向けたマーケティングプラットフォームの構築について、先行していた米州グループ会社に続き、日本を含むアジアでの展開に向けた準備やグローバルにおけるNAGASEの認知度向上、ブランドイメージの向上に繋がる施策を推進しました。また、日本ケミカルデータベース㈱と協同で開発を進めている「化学品ドキュメント管理プラットフォーム」上において、化学品を取扱う際に必須である書類の授受を可視化し、属人化の排除、効率化に寄与する化学品ドキュメント配付管理ツール「DocuValue(ドキュバリュー)」の提供を開始しました。NAGASEグループ内での利用による業務の生産性向上に加え、外部展開することでサプライチェーン全体の生産性向上に寄与し得るものであり、今後展開を進めてまいります。

サステナビリティの推進に関して、脱炭素経営ソリューションの展開パートナーである㈱ゼロ・ボード社との協業を深化させ、日本国内での展開を進めるとともにタイ・ベトナム等の東南アジアでの展開も進めました。また、㈱ゼロ・ボードの提供するソフトウェアである「zeroboard」の機能開発の強化、さらなる専門人材の拡充等を通じて取組みを加速させ、目標とするScope3での排出量の削減にも資すると判断し、同社への出資も実施しました。

ACE 2.0の非財務目標および実績

ACE 2.0においてマテリアリティ解決に向けた取組みを定量的に評価、モニタリングしていく非財務目標(KPI)として従業員エンゲージメント向上およびカーボンニュートラルに向けたGHG排出量の削減を掲げております。これらの2022年度の実績は以下の通りです。

従業員エンゲージメントの向上

GHG排出量の削減

※2020年度、2021年度データは第三者による保証済です。2022年度データは、2023年12月頃に保証を受ける予定です。

連結計算書類