事業報告(2018年4月1日から2019年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
1.事業の経過及びその成果
当連結会計年度の日本株式市場は、米国を軸とした貿易摩擦への懸念のなか始まりました。朝鮮半島の地政学的リスクに落ち着きが見られるなかで為替が円安ドル高となったことが支えとなり堅調に推移し、5月下旬には一時23,000円を回復する場面もありました。米国が中国に対して追加の関税を課すことを公表したこと等により下落する場面はありましたが、9月にトルコの利上げによって新興国通貨に対する不安が一服したこと、米中関係の悪材料が出尽くしたとの見方が広がったことから、9月末には日経平均株価は24,000円を超える水準まで上昇しました。しかし、その後も貿易摩擦は解消されず年末には中国大手通信機器メーカー幹部の逮捕が米中関係を深刻化させるという見方につながったこと等により貿易摩擦や景況感悪化への懸念が高まったことで年末には大幅な下落となりました。年明け後、米中貿易協議の進展期待や中国の景気刺激策への期待などから株価は緩やかに上昇し、2月中旬に21,000円を回復しました。その後は、欧州の景気減速懸念や英国のEU離脱方法への警戒感などから模様眺めの状況となった結果、当連結会計年度末の日経平均株価は前連結会計年度末に比べ1.2%下落し21,205.81円で取引を終えました。
このような市場環境のもと、当社グループの当連結会計年度末運用資産残高は、1兆1,856億円(注1)と前期末に比して5.4%増加しました。
事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)も前期比15.5%増の36億60百万円(前期は31億69百万円)となり、実質的な収益体質は着実に強化されております。
日本株式を投資対象とする運用戦略は、子会社であるスパークス・アセット・マネジメント株式会社が運用するファンドは、運用評価機関から継続して高い評価を受けております。また、私どもの投資哲学や運用スタイルへの関心も引き続き高いことから、日本の個人投資家の皆様に「日本株ならスパークス」とのSPARXブランドをさらに幅広く認知いただくよう努めております。
アジア株式を投資対象とする運用戦略は、東京・香港・韓国のファンドマネジャーがアジア企業への調査などを共同で行っており、投資アイディアを共有することで韓国株式の公募投資信託を新商品として設定するなど地力がついてきております。アジア企業の調査を通じ、今まで日本株式運用で培った運用手法を伝承することで「アジア株もスパークス」とのSPARXブランドを構築してまいります。
再生可能エネルギー発電事業のインフラ資産や不動産を投資対象とする実物資産の運用戦略は、全国の発電施設への投資を24件実行しており、再生可能エネルギー投資戦略の運用資産残高は1,529億円の規模となっております。太陽光のみでなく、バイオマス発電所も安定稼動させており、今後数年のうちに運転開始予定の風力発電所を含め投資対象は広がっております。また、発電事業等の開発段階から運転開始までのフェーズにおける投資(グリーン・フィールド投資)に加えて、運転開始後のフェーズにおける投資(ブラウン・フィールド投資)にフォーカスした、長期的に安定したキャッシュ・フローを源泉としたファンドも運用しております。ブラウン・フィールドのファンドでは、自ら開発した発電設備のみならず外部からの発電設備の取得も行うことができます。今後も引き続き再生可能エネルギーファンドのパイオニアとして皆様のご期待にお応えすべく、魅力的な投資商品の提供を行ってまいります。
次世代の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するため設立した未来創生ファンドは、1号ファンドの投資が完了し、2号ファンドを立ち上げ、2019年3月末で1,113億円まで運用資産残高の規模が拡大しております。国内外のベンチャー企業等への投資を着実に実行し、投資実績を積み上げ、質の高い投資を通じて、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成することで未来社会に貢献することを目指してまいります。
上記の結果、当連結会計年度における残高報酬(注3)は前期比19.1%増の102億1百万円となりました。一方、成功報酬(注4)は、前期比79.4%減の9億22百万円となり、営業収益は前期比15.0%減の112億39百万円となりました。
営業費用及び一般管理費は、前期比10.2%増の73億38百万円となりました。これは、成功報酬の減少に伴い利益が減少したことで業績賞与が減少したものの、委託者報酬(残高報酬)の増加に伴う支払手数料等が増加したことによるものです。
これらの結果、営業利益は前期比40.6%減の39億1百万円、経常利益は前期比39.2%減の40億51百万円となりました。また、当社が保有する投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益96百万円を特別利益に計上し、税金等を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比30.7%減の32億46百万円となりました。
(注1)当連結会計年度末(2019年3月末)運用資産残高は速報値であります。
(注2)基礎収益とは、経常的に発生する残高報酬(手数料控除後)の金額から経常的経費を差し引いた金額であり、当社グループの最も重要な経営指標のひとつであります。
(注3)残高報酬には、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所等の管理報酬を含んでおります。
(注4)成功報酬には、株式運用ファンドにおける成功報酬の他に、不動産購入・売却に対して当社グループがファンドから受ける一時的な報酬や、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所スキームの組成の対価等として受ける一時的な報酬(アクイジションフィー)を含んでおります。
2.対処すべき課題
当年度のグループ運用資産残高(AUM)は平均で前期比5.8%増、また平均の運用報酬料率は同5bps(ベーシスポイント)増となり、基礎収益力(※)は同15.5%増と、「安定的に稼ぐ力」は着実に強化されておりますが、成功報酬が減少したことにより、財務会計上の営業利益は同40.6%減となりました。
来年度以降も、グループAUM2兆円の達成に向けて引き続きグループ一丸となって取り組むとともに、これまでのファンドビジネスを強化し、将来の成長性、収益性の基盤となるビジネスの柱を作るため、新たな成長領域への投資にも取り組んでまいります。
また、出来るだけ早く過去最高益を更新するとともに、自律的・継続的に企業価値を高めることのできる組織を構築し、「世界で最も信頼・尊敬される投資会社になる」ことで「世界を豊かに、健康に、そして幸せにする」というミッションを実現するため、主として以下の課題に取り組んでまいります。
課題の第一として、市場に影響されない安定的な投資戦略と収益性の高い投資戦略によるハイブリッドのビジネスモデルを、さらに強化・拡大してまいります。
成長実現のための4本柱(「日本株式」「ワンアジア株式」「実物資産」「未来創生」)という、従来からの高収益な上場株式の投資戦略と、安定性の高い実物資産/未来創生の投資戦略を、それぞれ引き続き強化することに加え、今後とも当社ならではの革新的な投資戦略を継続的に構築し、ビジネスモデルをさらに多様化・安定化してまいります。またその過程で、「日本/アジアへの投資ならスパークス」という圧倒的なご支持をいただけるブランドを構築してまいります。
日本株式投資戦略については、運用実績も運用チームのクオリティも業界屈指と自負しておりますが、一方で現在のAUMは、それらが十分に反映されたものになっておりません。30年にわたる実績と経験に裏打ちされた、ユニークで魅力ある当社グループの投資を、世界中の投資家の皆様に対してしっかりとお伝えしていくことで、具体的なAUM拡大につなげてまいります。
ワンアジア株式投資戦略については、アジア全域の株式及び韓国株式に投資する(日本の)公募投資信託がそれぞれ新規設定されたこと等により、今後の拡大に布石を打つことはできましたが、いまだAUMの伸びにはつながっておりません。引き続き日本・韓国・香港の3拠点が一丸となって運用力を強化するとともに、日本株式投資戦略で採ってきた商品の差別化戦略を徹底することで、AUM拡大に不退転の決意で臨み、具体的に目に見える形で成果を出してまいります。
実物資産投資戦略や未来創生投資戦略は、この5年間にゼロから立ち上げた投資戦略ですが、グループの収益力を支える柱へと着実に成長しつつあります。今後は、韓国・香港等のグループ拠点とも協働し、これらの投資戦略をさらに拡大・強化してまいります。
これらの取り組みに加えて、保守的な財務運営方針を維持しつつ、一定の自己資金をエネルギー、量子コンピュータ、医療・介護といった複数の成長領域へ投資することで、新しいビジネスをゼロから生み出す企業文化と起業家精神を活性化し、これまでのファンドビジネスをさらに強化するとともに、企業文化や変わらない投資哲学を次世代に継承しながら、新しい取り組みを自律的に続けることのできる強い組織を創造してまいります。
課題の第二として、次世代のマネジメントを育成、登用し、合わせてガバナンス体制を最適化してまいります。
当社にとって、次世代のCEO選任は非常に大きな経営課題であることから、取締役会は今後、客観性・適時性・透明性ある手続きを確立し、十分な時間と資源をかけて、CEOの後継者計画の策定・運用を具体化し、後継者候補を育成してまいります。
次世代を担うマネジメントの必要条件としては、当社グループにおいては1989年の創業来、投資先候補企業を一社一社徹底的に調べ、現場に赴いて実際に目で見て判断する“現地現物”による調査活動、いわゆるボトムアップ・アプローチを徹底しておりますが、こうした日々の地道な活動の積み重ねによって、グループ役職員が自然と共有している価値観の他、高い知見・見識を備え、人格的にも優れていることです。このような要件を充たした人材に対して、より高い課題を与えて自覚を促していく他、社外から採用した優秀な人材をある程度の時間を掛けて育成し、これらを競わせ、衆目が認める結果を残した人材を、次世代のCEOとして登用してまいります。
また当社は、2019年3月22日に東京証券取引所市場第一部へ市場変更を行い、これまで以上に高い水準のガバナンスを求められることとなりました。当社グループは投資会社として、スチュワードシップコードの実践も合わせて求められておりますが、これら2つのコードを高いレベルで実践することが、日本初の独立系上場投資会社としての責務であると考え、次世代のCEOを中心とする新しいマネジメント体制に適したガバナンス体制を、合わせて構築してまいります。
課題の第三として、事業の拡大を支える優秀な人材を積極的に採用、育成してまいります。
当社グループのビジネスは、「人が全て」と言っても過言ではありません。この点から優秀な人材の採用を社内における最優先課題の一つと位置付け、人事部門、採用希望部門の他、関係部門やマネジメントも一丸となって、引き続き積極的に取り組んでまいります。
一方で、人件費は経費の中で最も金額の大きい固定費であって、その調整は難しいばかりか、間違った採用は周囲に悪影響を与えることで、比較的小さい組織である当社グループにとっては死活問題ともなり得ます。よって採用は、多様性に配慮しつつ、当社グループの企業文化との親和性、周囲に良い影響を与えることのできる優れた人間性、変化への柔軟な対応力なども慎重に見極めてまいります。また新しい試みとして、金融業界における経験が無くとも、「投資」に対して強い意欲を持ち、非常に優秀でモチベーションの高い若手・中堅人材の採用(”異才採用”)も実施してまいります。
その他、採用した優秀な人材が、互いに切磋琢磨し、成長の機会が提供されて自らの成長を実感できるよう、また金銭的なモチベーションだけでなく、非金銭的なモチベーションを強く感じることのできるよう、“Professional Nurturing Ground(プロを育む肥沃な土壌)”の提供に、引き続き取り組んでまいります。
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