事業報告(平成28年4月1日から平成29年3月31日まで)

当社グループの事業活動の状況

 当社グループは、グループの企業価値の向上を目指し、証券業を中核とした事業活動を行っております。当社グループの当期(平成28年度)の事業の概況は以下のとおりであります。

(注)本事業報告において、「当社グループ」とは、当社及びその関係会社から成る企業集団を指します。

経済・市場環境と当社グループの事業活動の成果

経済・市場環境

 当期のわが国の経済は、緩やかながらも持ち直しの動きが見られました。消費税率引き上げ以降、弱い動きを続けてきた個人消費については、失業率の低下や企業のベースアップに加え、消費者物価が低下したことなどから、非常に緩やかではあるものの、拡大基調を維持しました。特に、平成20年の金融危機後に実施された各種景気刺激策の反動の影響で落ち込みが続いていた耐久消費財が堅調に推移しました。住宅投資に関しては、日本銀行が平成28年1月にマイナス金利導入を発表したことを受けて住宅ローン金利が低下したことなどから、拡大基調が続きました。一方、企業の設備投資については一進一退の動きとなりました。企業収益は過去最高水準を維持していたものの、企業は設備投資に対する慎重姿勢を変えませんでした。外需に目を向けると、欧米をはじめとした先進国経済の緩やかな回復を背景に、輸出金額は増加傾向となりました。地域別に輸出数量の動向を見ると、良好な雇用環境などを背景に消費が堅調に推移した米国向けのほか、ユーロ圏向けは概ね堅調に推移しました。また、中国経済減速の影響などから、横ばいで推移していたアジア向けは年度後半にかけて持ち直しの動きを見せました。一方、輸入金額については、内需の伸び悩みを受けて低調な推移となりました。
 このような環境の中、企業の生産活動は平成28年後半以降、拡大基調をたどりました。変動費の抑制に加えて売上も増加した結果、全産業の経常利益は同年10-12月期に過去最高益を更新しています。
 株式市場においては、とりわけ海外の政治動向を反映し、株価が乱高下する展開となりました。平成28年6月には、英国でEU(欧州連合)からの離脱の是非を問う国民投票が行われ、英国がEUから離脱する方針が決定すると、株価は一時的に急落しました。さらに、同年11月に行われた米国の大統領選挙後に株価は再度急落に見舞われました。しかし、その後は新大統領の経済政策への期待感や米国の利上げなどを背景に、為替市場で急速に円安・ドル高が進行したため、株価は反発局面に転じました。この結果、当期末の日経平均株価は18,909円26銭となりました。
 債券市場では、平成28年1月に日本銀行が導入を発表したマイナス金利政策を受け、長期金利はマイナス圏で推移し続けました。しかし、日本銀行が平成28年9月に、短期金利に加えて長期金利も操作対象とする新たな金融政策の導入を決定すると、10年債利回りはマイナス圏から脱し、概ねゼロ%前後で安定的に推移しました。この結果、当期末の10年国債利回りは0.07%となりました。

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事業区分別の概況

企業集団の事業区分別売上状況は次のとおりであります。

当社グループの事業活動の成果

各セグメントの実績

①リテール部門

 大和証券株式会社では、営業員が付加価値の高い提案型サービスを提供する「ダイワ・コンサルティング」コースと、インターネットやコンタクトセンターを中心に利便性の高いサービスを提供する「ダイワ・ダイレクト」コースの2つのお取引コースを通じて、お客様の多様化するご要望に対応した幅広い商品・サービスを提供しています。
 当期は、資産形成層からシニア層まで、幅広いお客様のライフステージに沿ったニーズに対応するための商品・サービスの拡充に注力しました。
 商品においては、平成28年10月に、資産運用・管理に関する多彩な機能を追加した、ハイクオリティな投資一任サービス「ダイワファンドラップ プレミアム」の取扱いを開始し、平成29年1月には、資産形成層向けに低コストで少額投資が可能なインターネット限定の「ダイワファンドラップ オンライン」の取扱いを開始しました。
 また、サービスにおいては、お客様のご要望に合わせて相続手続のお手伝いをさせていただく相続サポートを一層強化しました。具体的には、高度な相続関連ノウハウを習得した「相続コンサルタント」の配置を進め、配置店は当期末に54店舗まで拡大しました。さらに、相続対策や相続手続を全般的にサポートする「相続トータルサービス」において、サービスメニューの拡充に注力し、申込件数が拡大しました。
 また、大和証券株式会社は、株式会社大和ネクスト銀行(当期末の預金残高:約3.1兆円)の銀行代理業者として、円預金及び外貨預金を取扱い、全国の店舗網を通じて、好金利の預金と利便性の高いサービスを幅広いお客様に提供しています。
 平成29年1月から加入対象者が拡大された個人型確定拠出年金「iDeCo」については、同月にSBIグループとの資本業務提携契約を締結、SBIベネフィット・システムズ株式会社への出資を行い、同年4月から大和証券株式会社にて提供を開始した「iDeCo」新プランの準備を行いました。

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②ホールセール部門

 ホールセール部門は、グローバル・マーケッツとグローバル・インベストメント・バンキングで構成されています。
 グローバル・マーケッツでは、主に機関投資家や事業法人を対象とした株式、債券・為替及びそれらの金融派生商品のセールス及びトレーディング、並びにリテール部門への商品供給、販売サポートを行っています。
 当期前半は、マイナス金利導入の影響や、英国のEU離脱に関する国民投票等により不安定な市場環境が継続し、株式関連ビジネスを中心に厳しい収益環境となりましたが、債券関連ビジネスは環境変化を的確に捉えた機動的なポジション運営により堅調に推移しました。市場環境に即したサービス・情報提供に努める中、米国大統領選挙以降は、市場環境が好転したことで株式関連ビジネスの収益も拡大しました。
 グローバル・インベストメント・バンキングでは、有価証券の引受業務、M&Aアドバイザリー業務及びストラクチャード・ファイナンス業務等を行っています。
 引受業務のうち国内では、株式会社キーエンスの株式の売出し、株式会社コメダホールディングスのIPO(注1)、三井不動産ロジスティクスパーク投資法人のIPOなどにおいて、ブックランナー(注2)兼共同主幹事を務めました。また、海外では、米国Acushnet Holdings Corp.のIPOのブックランナーを務めました。
 さらに、M&Aアドバイザリー業務では、大和証券株式会社が、JXホールディングス株式会社と東燃ゼネラル石油株式会社の経営統合において、JXホールディングス株式会社のアドバイザーを務めました。また、大和証券キャピタル・マーケッツ香港リミテッドが、中国のDaily-Tech Beijing Co., Ltd.主導の共同事業体のアドバイザーとして同社による英国のGlobal Switch Holdings Limited株式の取得案件に関わるなど、当社グループ各社の連携により、多くのM&A案件に関与しました。
 また、今後成長の見込める海外市場における営業基盤の強化及び提供サービスの拡充策として、中国の中信建投証券股份有限公司に出資するとともにM&A等の分野で同社との協力体制を強化したほか、M&A業務に関して、インドの投資銀行Ambit Private Ltd.と業務提携をいたしました。さらに、ベトナムのSaigon Securities Inc.へ追加出資を行い、持分法適用関連会社といたしました。

(注1)
IPO(Initial Public Offering):新規株式公開を実施するときに株式の公募・売出しを行うこと

(注2)
株式の公募・売出しを実施するときに、販売面を中心に管理、推進を行う主幹事証券会社

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③アセット・マネジメント部門

 大和証券投資信託委託株式会社及び大和住銀投信投資顧問株式会社は、幅広い販売チャネルを通じた商品の提供や運用力の強化により、運用資産額の拡大に取り組みました。
 大和証券投資信託委託株式会社では、「ダイワ米国リート・ファンド」、「ダイワ・US-REIT・オープン」の2ファンドが合計で2,696億円の資金増加となったほか、米国新政権の政策にいち早く着目し新規設定した「米国インフラ・ビルダー株式ファンド」が412億円の資金増加となりました。また、上場投資信託への資金流入を主因として、公募株式投資信託全体で当期の資金増加額は1兆6,140億円、当期末の純資産残高は12兆4,545億円となりました。
 大和住銀投信投資顧問株式会社では、国内外の年金基金等を対象とする投資顧問業務において運用能力の向上に努めました。また、投資信託業務では、外国債券を主な運用対象とした機関投資家向け投資信託を中心に、純資産残高の拡大を図りました。
 不動産アセット・マネジメント分野では、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント株式会社が運用する大和証券オフィス投資法人や日本ヘルスケア投資法人、株式会社ミカサ・アセット・マネジメントが運用する日本賃貸住宅投資法人などにおいて、新規物件の取得を継続的に進めるとともに、既存物件の価値向上に努めました。これらの取り組みにより、当社グループの同分野における当期末の運用資産規模は8,343億円に拡大しました。

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④投資部門

 大和企業投資株式会社は、国内外ベンチャー企業への投資や既存投資案件の回収を進めるとともに、中国の湖北省高新技術産業投資有限公司及び九州通医薬集団股份有限公司と共同で、中国ベンチャー企業を投資対象とするファンドを新規に設立することを決定しました。
 大和PIパートナーズ株式会社は、金融機関の不良債権処理ニーズを背景に着実に債権投資実績を積み上げるとともに、企業向け投融資や再生可能エネルギー事業に対する投資を実行しました。また、不良債権投資や企業投資などの既存投資案件の回収を進め収益に貢献しました。

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⑤その他

 株式会社大和総研は、ミャンマー資本市場へのブロックチェーン技術(注)適用に関して、ヤンゴン証券取引所及び現地証券会社を想定したブロックチェーンの実証実験を行いました。また、中国の南開大学や広東省社会科学院と共同研究等の包括的連携に関する覚書を締結し、情報発信力の強化に努めました。
 株式会社大和総研及び株式会社大和総研ビジネス・イノベーションは、大和証券株式会社やFPT Corporation、Nuance Communications, Inc.など、グループ内外の企業と連携し、AI(人工知能)技術を活用した新サービスの提供を始めるなど、新技術の活用にも注力しました。

(注)仮想通貨「ビットコイン」を支える基盤技術として考案されたコンピュータの処理(取引記録等)を分散管理するための技術。取引の記録をブロックに入れ数珠つなぎにして扱うことからこのように呼ばれ、様々な活用が検討されている

[CSR(注1)]

 当社グループは、金融機能を活用して持続可能な社会の形成に貢献するため、当期もインパクト・インベストメント(注2)商品の提供に積極的に取り組みました。具体的には、気候変動の緩和と適応に関連するプロジェクトを支援する「グリーンボンド」や、飲用水や衛生設備サービスへの十分なアクセスを実現するための「ウォーター・ボンド」などの引受け・販売を手がけました。
 大規模自然災害への対応として、当社グループを挙げて、平成28年熊本地震被災地への支援を多方面から実施しました。また、東日本大震災の被災地へ継続的な支援を行っています。例えば、「ダイワ・ニッポン応援ファンドVol.3 -フェニックスジャパン-」の信託報酬の一部を寄付しており、当期は、現地NPO7団体への助成を決定しました。
 さらに、経済・金融教育の支援も継続して行っており、当期は新たに、投資による資産形成や教育資金、家計、子育てなどの情報を提供するウェブサイト「SODATTE」の公開などを行いました。
 その他、各種ボランティア活動にも継続的に取り組んでいます。

(注1)
CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任

(注2)
経済的な利益を生むだけでなく、貧困や環境問題などの社会的課題の解決に資金の用途を限定する投資

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連結業績の概況

(1)当社グループの損益の状況

 当期の連結の営業収益は前期比5.7%減の6,164億円、純営業収益は同8.2%減の4,727億円となりました。販売費・一般管理費は同3.0%減の3,536億円となり、経常利益は同17.9%減の1,356億円となりました。これに特別損益、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は同10.9%減の1,040億円となりました。
 各セグメントの業績は、次のとおりであります。

[リテール部門]

 米国大統領選以降、市場環境が好転したこともあり、株式取引や株式投資信託の販売額が増加したものの、活況な株式相場であった前期に比べると、純営業収益は前期比13.7%減の1,880億円、経常利益は同51.9%減の293億円となりました。

[ホールセール部門]

 債券トレーディング収益が堅調に推移したことに加え、M&Aアドバイザリー業務など、投資銀行業務収益が前期に比べ増加したことから、純営業収益は同2.7%増の1,828億円、経常利益は同33.9%増の654億円となりました。

[アセット・マネジメント部門]

 運用資産残高は期末にかけて増加しているものの、公募株式投資信託や公募公社債投資信託の期間平均残高が減少したことなどにより、純営業収益は同8.1%減の464億円、経常利益は同11.4%減の265億円となりました。

[投資部門]

 投資案件の回収等が進んだものの、大型投資案件の回収が寄与した前期に比べると、純営業収益は同20.2%減の157億円、経常利益は同25.0%減の130億円となりました。

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(2)当社グループの資産・負債・純資産の状況

 当期末の資産合計は、現金・預金が前期末に比べ4,938億円、有価証券担保貸付金が同553億円、営業貸付金が同2,229億円増加した一方で、トレーディング商品が同9,550億円、有価証券が同3,489億円減少したことなどから、同5,935億円減少し、19兆8,272億円となりました。
 当期末の負債合計は、銀行業における預金が同571億円、有価証券担保借入金が同1,170億円、長期借入金が同1,742億円増加した一方で、トレーディング商品が同6,422億円減少したことなどにより、同6,239億円減少し、18兆4,838億円となりました。
 純資産の部は、円高の進行により為替換算調整勘定が同141億円減少した一方で、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことから利益剰余金が同342億円増加したことなどにより、純資産合計は同304億円増加して1兆3,434億円となり、1株当たり純資産額は745円80銭となりました。

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(3)当社グループの設備投資の状況

 当社グループでは、幅広いニーズに対応する商品・サービスの提供によるお客様満足度の向上、営業の効率化による収益力の強化、事業継続に不可欠なインフラ基盤の整備や法制度への対応、リスク管理体制の強化などを目的とする設備投資を行っております。
 当期は、ファンドラップのラインナップやオンラインサービスの拡充などの投資を行いました。また、AI(人工知能)、ビッグデータ(注)、音声認識、ブロックチェーン等の新たな技術に対する取り組みを進めるほか、お客様にマイナンバーを安心してお届けいただくための管理体制や海外拠点を含むグループ全体としてのサイバーセキュリティ対策のさらなる強化などに、総額約333億円のIT関連投資を行いました。
 また、店舗に関しては、大和証券株式会社が草加営業所を新設しました。

(注)事業に役立つ知見を導出することを目的として、ICT(情報通信技術)の進展により生成・収集・蓄積が容易になった多種多量のデータのこと

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(4)当社グループの資金調達の状況

 当社は、第27回無担保社債500億円(平成28年4月25日払込)、第28回無担保社債300億円(平成28年8月25日払込)及び第29回無担保社債220億円(平成28年12月1日払込)を発行しました。

連結計算書類

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