インターネットを取り巻く昨今の事業環境下においては、ブロードバンド回線の普及がひととおり進んだことで契約数の増加も緩やかになっている一方で、スマートフォンを中心としたモバイル通信網の普及は急激に進んでおり、インターネットの利用方法もモバイル通信にシフトしております。モバイル通信においてはいわゆる3大キャリア以外のMVNE・MVNOのシェアは未だ低いものの、各社の広告宣伝やサービスの多様化、3大キャリアのグループ会社のMVNOサービスの提供などにより、着実にユーザーを増やしており、収益機会の増加と同時に更なる競争の激化が進みつつあります。
こうした状況下において、当連結会計年度はモバイル事業・アドテクノロジー事業の継続成長を図るとともに、ヘルステック事業等の生活領域の新規事業に注力してまいりました。また、これら事業を実施するにあたり、当社グループの複数のサービスをレイヤーにとらわれない統合的なサービスとして提供するため、グループ内の技術や人的リソースの連携、ネットワーク資産の効率化などを進めております。
以上の取り組みにおいては、それぞれ次のような課題があると認識し、対応方針を策定しております。
① インターネット接続サービス市場環境の変化について
スマートフォンやタブレット端末などの高機能モバイル通信機器の普及によるモバイル通信環境における著しい利便性の向上により、インターネットへの接続がこれまでの固定回線によるものからモバイルデータ通信へと加速度的にシフトしております。ブロードバンドの固定回線は一定の普及により増加率は鈍化している一方で、NTTグループ(日本電信電話株式会社及びその連結子会社)を中心としてIPv6(IPoE)への移行が進みつつあります。一方で、各社のサービスの多様化や、新規のMNO事業者の誕生に象徴されるように、モバイル通信の提供事業者間の競争は激化しております。また、第5世代移動通信システムの整備が全国的に進む中、各事業者の次世代通信網への対応が喫緊の課題となっております。
当社グループでは、このような環境の変化を機敏に捉え、ユーザーのニーズを見据えた新たなサービスを開発し、いち早く提供を行うなど、必要と考えられる施策を推進しておりますが、今後もインターネット接続サービス市場環境の変化に影響を受ける可能性があるため、これらの環境に即応するとともに、これまでの実績や経験に裏付けされた、利便性の高い安定した新しいサービスの開発が重要であると認識しております。
② 回線・帯域調達コストについて
インターネット上では帯域を多く利用するリッチコンテンツが急激に増加しており、利用者一人あたりの使用データ量は急激に増えております。これにより、インターネット業界全体で、通信回線整備が需要に追いつかなかったり、帯域の不足が生じたりしております。当社では回線・帯域調達の効率化やデータの最適化を含めた高効率のネットワーク運用を行うなどの努力を行い、また、長年培ってきたIPv6に関する技術力を最大限に活かし、これらの環境に対応すべく努めております。新たな設備機器への投資を含め、調達コスト増加は採算悪化の要因となるため、このような取り組みは継続的に行っていく必要があると認識しております。
③ モバイル端末を中心としたモバイル通信網サービスの対応について
MVNE・MVNO事業は、無線通信インフラ(移動体回線網)を有する事業者から借り受けてサービスを提供することになるため、他社のMVNE・MVNO事業との差別化が困難であると言われております。
当社グループでは、長年のインターネット接続サービスの提供で培ってきたネットワーク技術やノウハウを活用し、また、グループ内の様々な付加価値サービスと組み合わせ、新しい仕組みを提供することにより差別化を図るとともに、より安価で高品質な無線通信サービスを提供できるよう、継続的な技術開発に努めることが必要であると認識しております。
④ MVNE・MVNO事業のユーザー層の拡大への対応について
MVNE・MVNOが着実に普及している中、これらのサービスを利用するユーザー層が、これまでのインターネット通信サービスに関してある程度の知識を有している顧客から、これまでインターネット通信サービスに深く係わってこなかった、3大キャリアであるMNOのガラケー(ガラパゴス・ケータイ)サービスを利用してきた顧客へとその層が広がっております。そのため、MNOとのサービス構成やサービス内容の違い、サポート体制の差異について契約時に認識をしていない顧客が増えており、また同時に事業者間の競争が激化する中で広告宣伝方法も多様化しているため、一部の事業者では顧客が思っていたサービスを受けられずトラブルとなっている事象も見受けられます。このような事業環境の中、政府も事業者による適切な顧客対応に関するガイドラインを強力に推し進めており、当社グループでも、一般消費者に対してMVNOサービスを提供している子会社もあることから、顧客のインターネット通信サービスへの理解度に応じてサポートを充実させたサービス展開に努めておりますが、今後も顧客層の変化に対応した、わかりやすいサービス提供に努めることが必要であると認識しております。
⑤ クラウドコンピューティング事業の展開について
仮想化技術を利用したクラウドコンピューティングの市場は近年急速に広がっており、当社グループにおいても巨大な仮想データセンターから個人利用目的のパーソナルサーバーまで、様々なサービスを提供しております。
このようなお客様のデータを預かるサービスでは、安定的な運用を行うことにより、顧客との良好な関係維持に努めることが重要です。
一方で、仮想化技術は高度な監視体制、効率的なシステムの冗長化と分散化、新しい技術の継続的な導入が必要な分野であり、人的体制も含めて、継続的な運用や開発体制の強化と改善が必要であると認識しております。
⑥ IoT市場への対応について
インターネットの普及により、通信分野では、これまでの人対人を中心としたものに加え、機器と機器がデータをやりとりするIoTが急激に拡大しております。このようなIoTの通信においては、大量のIP(インターネットプロトコル)アドレスを必要とするため、次世代プロトコルであるIPv6の利用が不可欠であり、IPv6関連の技術開発を長年行ってきた当社グループにとっては大きなビジネスチャンスであると捉えております。
当社グループでは、IoT市場における中心的な役割を担うべく、国内外を問わず多くのパートナー企業との連携や、これまでインターネットに接続することのなかった家電を取り扱うメーカー、新規の通信サービスを提供しようとするサービサー等に対して、積極的に当社グループの技術・サービスを提供すべく働きかけることが必要です。そのため、新技術に関する営業力の強化、継続的な技術開発による最先端のサービスの提供及び当社グループの技術を保護するための知財関連の強化等が肝要であると認識しております。
⑦ モバイル事業における合弁事業について
当社は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)と資本業務提携を行い、合弁事業としてトーンモバイルを設立しMVNO事業を展開しております。当社代表取締役会長である石田宏樹が同社の代表取締役社長CEOに就任し、現在、事業推進に注力しております。
この事業については合弁事業であることから、CCCグループの戦略変更等が発生した場合には、当社の想定通りには事業が進まない可能性があるため、CCCグループとの緊密な連携や、継続的な人的・事業的な交流により、より強固な関係を維持することが必要であると認識しております。
⑧ 関係会社管理の徹底及び社内管理体制と従業員教育の強化
当社グループでは、当社のみならず各子会社を通じて、インターネットインフラを中心として多岐にわたる事業を展開しており、各社にて新規人員の採用や教育を行っております。人員の交流も積極的に行っておりますが、事業の拡大に伴い、さらにグループ全体の管理の徹底及び従業員教育の向上が必要であると認識しております。
そのため、子会社の計数管理の徹底、統一的な監査の実施を通じて適切な子会社管理を行い、グループ内の内部通報制度の周知等を通じてコンプライアンス意識の向上に努めるとともに、企業理念や経営方針、統一的な教育プログラムをグループ各社で共有し浸透させることで、当社グループ社員の連帯意識の強化を図り、グループ会社間の枠に捉われない発展を促します。
また、内部統制の観点でも、金融商品取引法等に基づく財務報告の信頼性を確保するために必要な内部統制の整備や構築等を行ってまいりましたが、さらにグループを通じて、内部統制強化のための連携・改善等を継続的に行っていく必要があると認識しております。
そのため、各グループ会社の監査役、内部監査室の連携を促進し、また継続的な従業員教育を通して、コーポレートガバナンスの充実及び法令遵守の徹底にグループ全社をあげて取り組んでおります。
続きを見る閉じる